mission 8

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 そんなことを考えていると、あっという間に食事の用意が整っていた。筑前煮に厚焼きの出汁巻卵、きゅうりとみょうがの酢の物に煮豆や塩おにぎりなどが所狭しと並んでいる。  小夏は割り箸を八雲に手渡すと、お椀に注いだ味噌汁を八雲の目の前に置いた。 「どうぞ座って召し上がって下さい。随分食べてらっしゃらなかったとお聞きしましたのでまずはお味噌汁からの方が……あの、そんなに便秘がお辛ければ一度病院に」 「違う! 違うんだ……便秘じゃない。ただ普通に……胃の調子が悪かっただけだ」  歯切れ悪く言い訳をしているうちに八雲はここ数日のもやもやした胸焼けの理由が分かってしまった。はっきりと嫉妬していたのだ。成宮一樹に。  どんなに取り繕ったって、結局自分だってただの男だったんだと思い知らされる。  でもそんなことはもうどうだっていい。目の前で彼女が元気に笑っていてくれるなら、それでいい。八雲はそんなことを思いながら、渡された味噌汁に口をつけた。 「旭」 「はい、なんでしょう?」 「前にどこか行きたいと言っていたな。どこがいい?」 「おっ、覚えていてくださったんですか?!」 「当たり前だ。一度聞いたことは忘れない」 「嬉しいです! すっごく嬉しいです!」  小夏は取り皿におかずをよそいながら、今にも小躍りしそうなほど周りに花を飛ばし、喜びを露わにした。こんなことで喜ぶんだな、と小さく笑みをこぼした八雲はそっとお椀を机に戻した。 「どこがいい?」 「あの、まだ時期は少し先なんですが……綾瀬川公園の紫陽花祭りに行ってみたくって。できればおばあちゃんも一緒に。一緒に行く約束をしてたのですが……果たせなかったんです」 「分かった、君の祖母も一緒に。新しい写真立てを用意しよう。きっと喜ぶ」 「……はいっ!ありがとうございます、嬉しいです!」  小夏は満面の笑みで微笑むと、取り分けたおかずとおにぎりを八雲に手渡した。 「旭は?」 「私は大丈夫です。もう食べて来たので。たくさん召し上がって下さいね。お口に合うといいのですが……」 「旭の飯が外れたことはない。気にするな」  そういうといつも通り大口を開けておにぎりをかじりながら、ソファの隣をぽんぽんと叩いた。どうやら座れと言っているらしい。小夏は慌てて立ち上がると、いそいそと頬を染めながら隣に座った。
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