Epilogue

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「おい八雲、据え膳食わぬは男の恥って言葉知ってるか。俺に言わせりゃな、恥なんてもんじゃねぇ。死罪に値すると思っている」 「……突然なんだ」 「ベッドで寝てたならまぁ理解できる……だけどなぁ……なぁっにソファに座って仲良しこよし頭つき合わせて寝てんだよ! アホか! 小学生か! 小夏の努力を無駄にしやがって、お前なんか男でもなんでもねえ!」  目の下にクマをつくって小夏の夜通し監視を終えたロイはデスクチェアをぐるりと半転させると、夜勤明けという妙なテンションのまま一気にまくし立てる。  一方の八雲はボスから入学時に贈られたイタリアンレザーの学生鞄に教科書を詰めながら、まるでゴキブリでも見ているような視線をロイに向けた。 「頭と(しも)が直列繋ぎのお前と俺や旭を一緒にするな。そもそも手を出すなと言ったのはお前だろう」 「はん? あんなのはフリに決まってんだろうが。せっかくお膳立てしてやったんだからな……おい、どこまでやった。まさか本当に何もしてねぇわけないだろ? AかBか? まさかお前……このソファでセッ」 ズコン!!  激しくフローリングが割れる音と飛び散る木片、問答無用で叩き落される踵。顔面を床にめり込ませたロイが沈没する後ろには、寝起きで不機嫌度が最高潮に達したエリザがショートパンツから生脚をさらけ出し仁王立ちしていた。 「エリザ、俺はこのゴキブリが話す言葉の意味が分からない」 「ジェネレーションギャップよ。気にしないで。朝から不愉快極まりないわ」  ヒクつくロイの尻を見下しながら、エリザはペッと唾を吐くジェスチャーをした。 「そんなことより。今日は早いじゃない八雲」 「あぁ、旭から朝食に誘われている」 「……よかったわね。あなた、なんだかとてもいい顔してるわ。憑き物が落ちたみたい」 「……世話をかけたな、色々と」 「あら、お礼を言おうとしてるの? 珍しい」 「言わなきゃ伝わらないことがあると気づいたんだ」  八雲は玄関先の鏡で自分の顔をしばらく眺めた。いい顔かどうかは分からなかったが、幾分か晴れやかには見えるかもしれない。  僅かに飛び跳ねた右側の髪を少しだけ撫でつけると、スニーカーに足を入れた。 「小夏の気持ちは伝わったかしら?」 「あぁ、もう疑ったりはしない」 「よかった。あなたの気持ちは?」  八雲はコンコンとつま先を玄関に打ちつけると、ゆっくりと振り返る。 「俺は言うつもりはない。……全て終わらせる覚悟ができるまではな」 「全てって……」 「何もかもだ」  八雲は自らの左手に視線を落とすと、ホルスターの中にある愛銃をそっと撫でた。
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