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「あぁ、旭が久しぶりに皆で夕飯を食べたいと言っていた。可能なら来て欲しい。礼がしたいんだそうだ」
「まぁ、そんなのどうだっていいのに……」
「律儀なんだ。彼女のいいところだと思うが?」
「ふふ、分かったわ。ロイも引きずって行くから」
「じゃあ、行ってくる」
「あ……ねぇ、八雲!」
玄関のドアを開けた八雲が振り返る。エリザは裸足のまま八雲の元まで駆け寄ると、八雲の肩に手を置いた。
「あなた……本当に、それでいいの? 我慢してない? ずっとそのままなんて、やっぱりそんなの……そんなのあんまりじゃなっ」
「エリザ」
八雲はエリザの手をそっと取ると、元に戻させる。そして眉根を下げたエリザを見上げ、口を開いた。
「いつも気にかけてくれて感謝してる。でも気にするな。自分で言うのもなんだがな、こんなに晴れやかな気分は久しぶりなんだ。そうだな……多分今の俺は……
無敵だ」
そう言い残すと、片手を小さく振って出て行ってしまった。
エリザは文字通り目を点にして閉められた玄関扉を眺める。そしてそのまま突っ伏しているロイの尻を蹴り上げた。
「いぃっだぁっ!」
「ちょっと、今の……」
「……あー、録音して一生ネタに使ってやりたいくらい恥ずかしいセリフ吐いていきやがったな」
「違うわよ、それもそうだけど……あの子笑ったわ。はっきり……笑ったのよ! 表情筋なんてとっくに死滅しちゃったのかと思ってたのに……」
「お前、何気に酷いヤツだな」
ロイは赤くなった自慢の高い鼻を撫でながらムクリと腰を上げた。
「俺は正直……わかんねぇよ。自分の口から出てくる言葉と正論が一致しねぇ。こんなこと初めてだ。お前、本当にこれでよかったと思ってんのか? 本当に……これで」
「これでよかったのよ。これでよかった事にするために私達がいるんじゃない。するのよ。これから、絶対に」
ロイは一瞬面食らったような顔をした後、深く長くため息を吐いた。しばらく思案するように眉間に皺を寄せ床を眺めていたが、ふと何かを諦めたかのように眉を下げると、仕方ねぇなと小さく呟いた。
「あ! 言い忘れてた」
「何よ、急に」
「ボスが日本に来る」
「はぁっ?! そう言うことは早く言いなさいよ馬鹿!」
ゴスン!
「あぁまずいわ。いつ来るのかしら。肝心なこと聞く前にのしちゃったじゃないの」
本日2度目の撃墜を食らったロイは今日はとんでもない厄日だと、床に顔面をめり込ませたまま僅かに残っていた意識を遂に手放すのだった。
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