581人が本棚に入れています
本棚に追加
「……なんでついてくるのよ。学校はあっちだけど」
「別に向日葵には関係ねぇ。こっちに用があるんだよ」
商店街を学校とは逆走している向日葵は、自分の数歩後ろを歩く幼馴染に堪らず声をかけた。会話をしたのは勉強会のあとに気まずく別れたあの時が最後。それでも変わらず返ってきた返事に向日葵はどこかホッとするのだった。
「……旭さんが心配なんだよ」
「奈々子さんから少しだけ聞いたけど、なんでもっと早く言いにこないわけ? 小夏と相馬が喧嘩だなんて……あんな鈍チンと鈍チンすれ違ったら一生すれ違ったままよ、きっと」
「俺だってそう思ってるから心配で来たんだ! それに……こないだはちょっと言い過ぎたから……お前に顔合わせづらかったんだよ。分かれ」
ピタリと足を止めて振り返る。そこには口を尖らせた一樹がばつが悪そうな顔をして俯いていた。
昔から変わらない。何かまずいことが起きると決まっておちょぼ口のように唇を尖らせる一樹特有の癖だ。何年経っても変わらない幼馴染の姿に向日葵は堪らず笑ってしまった。
「お、おい、何笑ってんだよ!」
「ぷっ、え? 嫌、だって、変わんないなぁって……その顔、いつも思うんだけどすっごいブサイク」
「うるせー」
一樹はポカンと向日葵を軽く小突くと、やっと隣を歩き始めた。
「とにかく、私達がなんとかしてあげないと。小夏が可哀想だわ」
「相馬だって悪いヤツじゃないんだ。絶対行き違いが起きてるに決まってる。とにかく間を取り持ってやんないと」
「……ナルにとったら絶好のチャンスなんじゃないの?」
「こういうのは嫌なんだよ……」
「ま、そういう所がアンタの馬鹿でいい所よね」
「褒めるか貶すかどっちかにしろ」
2人は旭家の玄関先に並んで立った。2人同時に息を吸って深呼吸する。そして意を決した向日葵がインターホンを押そうとしたその時だった。
ガラララ
「……なんだ、お前らか。早いな」
「え?」
「は?」
「どうした? 入るんなら入れ。旭は便所だ」
「相馬君! 本当に本当のことを言うのはやめてください!」
血相を変えた小夏が居間からダッシュで現れる。そんな2人の様子を見つめていた向日葵と一樹はポカンとだらしなく口を開けた。
最初のコメントを投稿しよう!