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「あの……どうかされましたか? 今日は成宮君まで……」
「え、あ、いや、その……」
「待って待って、全然話が見えない。相馬、アンタここで何してんの?」
「朝食をご馳走になっていた。普段朝はコーヒーか携帯食しか食べないからな、旭が気遣ってくれたんだ。旭、迎えも来たしそろそろ行こう。準備してきたらどうだ?」
「あ、そうですね。もういい時間ですし、行ってきます。皆さんちょっと待っててくださいね」
「ちょっと待って小夏、私も行く!」
向日葵は待ちきれないといった様子で靴を脱ぎ捨て小夏の肩を抱くと、一方的に何かをまくしたてながら居間へ入っていってしまった。
玄関に取り残された男2人はどことなくぎこちない空気を味わいながら立ちつくす。
片方は一方的に嫉妬をしており、もう片方は相手をとてつもない壁だと勝手に恐れおののいている。互いが互いをそっと目配せすると、八雲はゆっくりスニーカーを履き始めた。
「あの、さ……仲直りしたの? 旭さんと」
「そもそも喧嘩していた訳じゃない。全面的に俺が悪いんだ。それが解消しただけのこと。知っていたのか?」
「いや、詳しくは知らないけど……なんだか不穏な空気だったから。でも、そっか……それならよかった。本当に」
一樹は眉を下げるとくしゃりと顔を崩して笑った。その笑顔に八雲の良心がグサリと傷つく。一樹は本当に、正真正銘のいいヤツだと思い知ったからだ。
だからこそ、これ以上彼を騙すわけにはいかない。八雲はそっと一樹に外に出るよう促す。2人は並んで玄関の外に立つと八雲はひとつ息を吐いて口を開いた。
「あの、前に言っていただろ……協力をしてほしいと」
「え? あぁ、旭さんのこと? うん、言った」
「ずっと適当な返事ばかりをしてすまなかった。不誠実だとやっと気づいたんだ。俺は、俺は……やはり協力できない。すまない」
「相馬……」
「本当にすまない。お前がいい奴だってこと俺はよく知ってる。みんなに慕われて明るくて親切で、お前みたいな男が旭の側に居るべきなんだって頭では分かってるんだ。分かってる……でっ、でも俺は」
「相馬」
諭すように名前を呼ばれ、八雲はビクリと肩を揺らす。しかし、ふと顔を上げると想像とは違い穏やかな顔をした一樹が八雲を見返していた。
「もういいよ。分かってる。俺だって相馬がいい奴だって知ってる。相馬の気持ちだってなんとなく分かってる。分かってて頼んだんだ。ずるいのは俺だ。相馬が抜群にかっこよくていい奴だったから、怖くて……だから悪いのは俺。そんな顔すんなよ」
一樹は眉を下げて微笑むと、八雲の頬をペチペチと叩く。八雲はハッと目を見開くと、何とも言えない表情で斜め下を見下ろした。
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