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「さて、君の言い分を聞こうか。ミスタークボノ」
息がつまるほどに白で統一された部屋でくるりとチェアを反転させた男は、目の前で跪く1人の男を見下ろしていた。
肩で切りそろえられた黒髪がさらりと揺れる。左眼は深いブルーだが、右眼は黄色く変色している。彼は白くて滑らかな人差し指をするりと自らの頬に滑らすと、右目の瞼にそっと当てた。
クボノと呼ばれた男はゆっくり顔を上げる。その瞳は何も写していないように虚ろで、怯えも恐れもない。今から糾弾される人間のそれとは到底思えないものだった。
「……全ては作戦通りです。NeRoの追っ手が日本に送り込まれたことは既に把握していました。奴らに嗅ぎ回られるのは厄介です。どこかで動きを封じる必要がありました。今回は待ち伏せに近い形でニーナ・ブラック、你 明鈴の2名を罠にはめることに成功しています。暫くは使い物にならないでしょう」
「もう1人は?」
「No.3……失礼、ルカ・マリアーニは戦闘にはほとんど参加しません。脅威になる相手では」
「じゃあ今回は君の片足分以上のメリットがもたらされたと考えていいのかな」
「相違ありません」
「追跡は?」
「弾は適切に処理しました。GPSのダミー電波も抜かりなく」
クボノと呼ばれたその男は淡々と口を開いた。BianCoのボスはもう一度彼の怪我を負った足先から頭までを舐めるように見る。そしてもう一度、自身の右瞼に触れると、ひとつだけ頷いた。
「……そう。分かった。ある程度かたがついたし、一度旭小夏と接触したい。彼女がどこまでBlackCubeとシンクロしているのか、確実に計測したいんだ。彼女の周りにいる犬っころのおかげで随分と進んでいると思うんだけどね……」
「おかげ……? ですか」
「Black Cubeと人間の融合を進める方法、知ってるかい?それはただ一つ、“大きな感情の揺れ”だよ。僕らは強制的にそれを行われたから、我が愚弟を見れば分かるだろう? 可愛げのないマセた糞餓鬼に仕上がったわけだ」
彼はそう言い捨てるとふぅとため息をつき、手に持ったいくつかの書類に目を落とした。
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