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「シンクロ率、君の目測では?」
「ここ数ヶ月で尋常ではない成績の飛躍が見られます。特に数学、物理……しかし恐らく50から60%程度かと」
「僕も同意見だよ。なかなか厄介なお姫様だな。せっかく祖母を殺してやったのに大して伸びなかった。感情にも種類がある。彼女の場合シンクロを深めるのはいわゆる負の感情……“イジメ”でも“肉親の死”でもなかったようだ。じゃあ何なのか……。今になってやっと分かった気がするよ」
BianCoのボスはひとつの書類に目を通すと、小さく口角を上げる。端には硬い黒髪に眉間に皺を寄せ、学ランを着込んだ学生の写真がクリップで留められていた。
「犬っころは元気かい?」
「ボス。彼を……相馬八雲を侮るのは危険です」
「別に侮っちゃいないよ。彼番犬みたいじゃない? お姫様の周りをくるくる回ってさ、周りを威嚇してワンワンと、牙が抜けかかった駄犬が偉そうに。何を勘違いしてるんだろうね、ほんと……鼻っ面蹴って泣かしたくなる」
「……」
「でもしないよ。どうやら彼が彼女の覚醒に必要らしいから。バカな奴。自分が主人の首絞めてることも分かんないんだよ? 精々このまま何も知らず恋愛ごっこに精を出してくれればいいさ。本当気楽な奴……どこまでも間抜けで愚鈍な、下らない、ただの人間だ」
そして、僕もね。
彼は小さく呟くと真っ白な天井を眺めた。
「ほんっと、どいつもこいつも醜くて汚くて、下らない。さっさと戻したいな。まっさらで真っ白な、何にもない更地に。ミスタークボノ、君もそれを望んでるんだろう?」
キュイ、と小さく音を立ててチェアが大きく仰け反る。彼はそこから頭だけをだらりとクボノに向けた。クボノは速やかに跪くと、地に着くほど頭を下げる。
ボスはその両目を天井に向けると、まるで独り言のように呟いた。
「……忘れない方がいい。君の奥さんもお子さんも、奪い去ったのは誰であり、何だったのかを。大丈夫、僕と旭小夏が全て元に戻すよ。あるべき場所へ、正しく、確実に、ね。そのためにはまず、全て消さないと。
真っ白に」
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