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昼間だというのにどんよりと薄暗い部屋の中、モニターのライトだけが煌々と揺らいでいる。
漆黒の革張りの1人がけソファーに体操座りをして縮こまった少年は、その小さな身体をさらに小さくして膝小僧に顔をうずめていた。漆黒の滑らかな前髪からオッドアイを僅かに覗かせ、目の前のモニターをじっと見つめている。
“俺はもう2度と君の気持ちを疑うことはしない。こんな俺を好きだと言ってもらえて……嬉しかった。ありがとう。そして……俺は君を汚いと思ったことなんて、一度もない”
モニターの中では黒髪の少年が少女を抱きしめていた。強く強く、その両手、指の隙間からも何一つこぼさまいと。
その様子を眺めながら、小さな少年はまるで貧乏ゆすりの代わりかのように紅茶に角砂糖を放り込み続ける。ティーカップの中はもはや飽和状態で溶けていない角砂糖の残骸が小さな山を作っていた。
「……いくら部下とはいえ、覗き見は感心しませんな」
「……いたの」
「おや、気づいていらっしゃるとばかり」
わざとらしく頭を下げたあと少年に向き直ったNo.2、オリバーウォードは銀色に光る長方形のフレームをクイと持ち上げた。
「彼女……旭小夏は八雲が好きなのかな」
「そうおっしゃっておいでですから、そうなのでしょうな」
「八雲も、彼女が好き……なのかな」
「ボスはどうお考えで?」
ボスの指先がピタリと止まる。そののち、指先で摘んでいた角砂糖がピシッと小さな音をたててぽろぽろと砕け落ちた。
「……君は僕を責めてるんだろう」
「滅相もない、ぼっちゃま」
「その呼び方はやめろ。君はもう僕の執事じゃない。部下だ」
「……失礼しました」
オリバーは一歩下がると頭を静かに下げた。
ボスは砕けた角砂糖の欠片が付いた指を口に含み眉間に皺を寄せた。ゆらゆらと瞳を揺らし、ただただ部下とターゲットが織りなす事と次第を見送る。
「そうだよ。こうなることを予測できなかった僕のミスだ。ただ、八雲に普通の生活ってものを経験して欲しかった。学校に行って、友達を作って、勉強して……親心のつもりだったんだ。ただ、それだけ……」
ボスはちらりと隣に捨て置いた資料に目を向けた。
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