mission 1

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 私立綾瀬川学園高等部3年サッカー部、有坂大河。尚、今後この名前を覚えておく必要はほとんどない。  高校デビューで染めた茶髪も3年間かけてサマになり、無造作ヘアの黄金比、女子が喜ぶ言葉や所作、その他諸々イケてるメンズに必要な知識と技術を着実に手に入れてきた。  弱小サッカー部の名は変わらなかったものの廊下を歩けば女子達の黄色い声が飛び交う。それが彼の承認欲求を満たし、自己肯定感に強く結びついていた。  同じ学年には黒崎雅治という化け物並のイケメンが存在していたが、敢えて目に入れないという方法で華々しい高校生活を謳歌していたのだ。  あの日、あの時。  相馬八雲といういけ好かない転校生に出会うまでは。  あの日を境に大河の輝かしい高校生活は崩れ去ってしまったのだ。ガラガラと、それは盛大な音をたてて。 「あの……先輩、私に何か御用でしょうか……?」  目線を下げるとぎこちない苦笑いを貼り付け小さな体を更に縮こまらせている下級生が大河を見上げていた。ふわりふわりと風に揺れる栗色の髪でさえ大河の神経を逆撫でする。  この女にサッカーボールをぶつけてしまったがために、訳の分からない難癖をつけられ、あんなに人が集まる場所で辱めを受けさせられたのだ。  この女が、あんな場所で、馬鹿みたいに突っ立っていたせいで。  そもそも器の小さい彼は自分のしでかしたことを棚にあげるのが誰よりも得意だった。  大河はひくつくこめかみをなんとか抑え口を開く。この女に落とし前をつけるのは後だ。この女のバックにいる、あのクソ餓鬼をおびき出すまでは。  大河は校舎に沿うように植えられた花壇で花の水やりをしていた小夏の肩を強く握ると、校舎の壁に押しやった。  ゴトンと音を立ててジョウロが転がる。小夏は大河の高そうなスニーカーによって無残に踏み潰された花たちを見て小さく悲鳴をあげた。
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