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何がダメなのか訳の分からないまま、ハッタリをかまされたと思った大河は小夏の胸倉を掴んだ。
「おいお前、いい加減にし」
「やめろ相馬! ここ3階だぞ!」
またかよ!!
大河は苦々しくもう一度頭上を見上げた。
その時、大河の背筋は今まで感じたことのないほどの悪寒に支配された。
3階の校舎から顔を覗かせる1人の男子生徒。硬い黒髪を風になびかせ、口を真一文字に引き結び、眉間には深い皺。その鋭く視線だけで人を殺せそうな三白眼は間違いなく大河に向けられていた。
その生徒は背後で背中を引っ張っているもう1人の生徒をあしらうと、何のためらいもなく窓枠に足を引っ掛け、
「う、嘘だろ……」
大河の呟きも、制止の声を上げた生徒の言葉も虚しく、
そのまま飛び降りた。
ビュウと風を裂く音。その生徒は律儀に衣替え期間を守り未だ暑苦しく着込んだ学ランをはためかせながら落下していく。
そして校舎脇に植えられた木の幹に手をかけると、そのままひらりと衝撃をいなし、ストンと地面に着地した。とても3階から落ちてきたとは思えないほど軽やかで、さも当たり前のように跪いている。
パンパンと学ランをはたきその生徒は立ち上がった。大河の背後で何人かの部員が小さな悲鳴をあげる。それも仕方がないほど、その生徒、否、相馬八雲の機嫌は最高潮に悪かった。
※挿絵 イノウエさんより
https://estar.jp/users/153361927
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