mission 1

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「そこで何をしている」  ザワリ、と背中を悪寒が駆け抜ける。低くて冷え切った温度を一切感じない声。小夏はびくりと肩を震わせたが、八雲までが一瞬鳥肌を立ててしまうほどの威圧感が背後から迫ってきた。  八雲は思わず小夏を抱き寄せ、ホルスターに片手を入れる。勢いよく振り返るとそこには書類の束を抱えた佐久間が2人を冷ややかに見下ろしていた。 「これは、なんだ」  佐久間はサッカー部員の山を一瞥すると八雲を見据えた。八雲の手にじわりと汗が滲む。なぜ一介の教員相手にここまで体が危険信号を上げているのか分からないまま、八雲は警戒レベルを下げずに口を開いた。 「旭が絡まれていたので助けようとしたら襲いかかられました。それを避けたらこのように」 「お前は、そんな戯言が本当に通じると思っているのか?」  佐久間は頭を僅かに傾けると、同じく温度を持たない虚ろな目で八雲を見下ろした。言葉の真意が掴めないまま八雲は佐久間の両目を強く見返す。  その瞬間、八雲は頭に一つの写真が思い浮かんだ。以前ロイに見せられたNo.6の顔写真だ。  しかしそれは一瞬のことだった。なぜなら目以外に共通点がまるで見当たらない。鼻も口も骨格に至るまで整形しなければ到底無理なほどNo.6と佐久間は根本的に違っていた。  しかし、警戒するに越したことはない人間であることは確かだ。八雲は佐久間の反応を窺いながら、動きを見逃すまいとじっとその双眸を見つめる。  八雲が口を開くつもりがないと判断した佐久間は、小さく舌打ちをするとゆるりと口を開いた。 「暴力沙汰とは、なかなか躾の行き届いた転校生だ。まともに編入試験を受けて入ってきたのかすら疑わしい。しかし、中間考査など必要なかったようだな。その前にお前を退学にできそうだ」  佐久間は僅かに口角を上げながら、持っていた書類をパチンと叩く。どうやらそれは次の授業で返却予定の古典の答案用紙らしい。  八雲は奥歯をぎりりと噛み締めたが、落ち着くよう一つ息を吐くと口を開く。しかしそれを遮ったのは小夏の必死過ぎる叫び声だった。
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