mission 2

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ーーーうーーくん ーーそーまくんー! 「相馬君!!」 「っ!!」  頬にさらりと触れた栗色の毛と、小夏特有の優しく甘い香りに八雲は全身をびくりと震わせた。心配げに眉を下げ八雲を覗き込む小夏の顔がすぐ目の前にあり、ほんの一瞬だけ頬が赤く染まる。  徐々に小夏の周りの風景が視界に戻ってきた。八雲はそこでやっと自分は小夏と下校途中で、三木精肉店に立ち寄っていたことを思い出す。手には見覚えのないコロッケがあり、店先のベンチで小夏と座っていた。 「どした坊主。新作、不味かったか……?」 「……いや、すまない。少し呆けていた。今食べる」  八雲は心配げに頭上から声をかける向日葵の父を一目だけ見て、まだ出来立ての温かいコロッケを一口かじった。  口に広がる豊かなスパイスの香り。新作はカレーコロッケかと一瞬頭をよぎったが、実際は全く別のことが彼の頭を支配していた。  つい先刻感じた何とも言えない恐怖の感覚がまだ背中に残っている。あの佐久間が見せた独特の威圧感はどう考えても普通の人間の成せるものではなかった。  そしてそのあと見せた小夏の青い顔。数週間前より感じている誰かの視線。  確実に何かが変わり始めている。それも悪い方向に。 「相馬君、今日は体調が優れませんか……?」  八雲は自分を覗き込む小夏の心配そうな顔を見て初めて自分がどんなに酷い顔をしているのかに気がついた。  これ以上小夏に無駄な心配をかけるわけにはいかない。後は帰宅してから報告書にまとめエリザとロイに相談しよう。  八雲は一旦考えをストップさせ、少しでも安心させたい一心で小夏の頬をそっと撫でた。 「すまない。本当に大丈夫だから、そんな顔するな」 「……はい、あの、実は奈々子さんに呼ばれてて。少しだけ行ってきても構いませんか?」 「あぁ、待ってる」  八雲が少しだけ口角を上げると、小夏はほっとしたのか安堵のため息をつく。そして三木精肉店と向かい側のPâtisserie Narumiyaにパタパタと駆けて行った。  その後ろ姿を店長と眺めながら、八雲はもそりと二口めを頬張る。するとおもむろに店から出てきた店長が八雲の隣にその大きな腰を下ろした。
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