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「……OK。状況が変わってきた。悪い方向にだ。君にこれ以上情報を与えないことがデメリットにしかならないと判断した。今持つ情報を全て君に与えよう」
「ボス……!」
「ただし。この情報を得たとしても君の置かれた状況は変わらない。君は何があろうと最終的には僕の命令に従い、NeRoを守る。いいかい?」
情報を得ることで俺がNeRoに楯突く可能性が生まれる、ということか?
八雲は一瞬思案する。しかしここで首を振ってしまったらきっとこの時点で自分の作戦は終わってしまうだろう。
八雲は一度だけ頷いた。
ボスはロイに目配せをする。ロイは小さく頷くと厳重に鍵をかけたデスクの引き出しから書類の束を取り出し、八雲に握らせた。
「……お前もグルか」
「そういう言い方はやめろ。逆ならどうする? ちったぁ冷静になれ」
ロイは最後に舌打ちをするとくるりと踵を返し、タバコを吸いに換気扇の下へ向かった。
ぱらりと1枚表紙をめくる。
日付は一昨日づけのものだった。おそらく最新のデータだろう。顯龍のサインも確認できる。八雲は一字一句逃すまいと目を皿のようにして書類を読み耽った。
しかし読めば読むほど顔が青ざめていく。ページをめくる手がどんどん乱暴になっていき、最後に書類をモニターの前に叩きつけた時には今にも血管が切れそうなほど青筋をたてていた。
瞳孔はパックリと開き、ボスを睨みつけている。震える唇をなんとか開いた八雲は、自分からこんなにも低い声が出るのだとほんの一瞬だけ身震いをした。
「何故今まで……こんなっ」
「では逆に問うけれど、もしこの情報をあらかじめ君に渡していたとしたら、君は今のように従順に護衛をしていただろうか?」
「っ!」
「恐らく君は旭小夏を1人の人間ではなくいつ爆発するか分からない不発弾のように扱っていただろうね。もしくは手足をもいででもNeRoへ連れ帰り、監禁させていたかもしれない。
最悪、殺していたかもしれないね」
爪が手のひらに食い込む。ジワリと血が滲むのに痛みが麻痺してしまったのか八雲は何も感じていなかった。ただ心臓が暴れる。血が逆流する。
何故、何故、どうして。
そればかりが堂々巡りを続けた。
少しだけ吐き気がする。
八雲は分かってしまったのだ。
自分はどう足掻いたって、
彼女を救うことができないということを。
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