577人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺は……こんなもの受け入れられない。こんなこと、あるはずがないっ……」
「事実だ。現時点で彼女をBlack Cubeから分離させる方法はない。脳に埋め込まれたBCを物理的手段で排除すれば彼女は間違いなく死ぬ」
息を飲み今にも消えてしまいそうな顔をする八雲に、ボスはそっと目を閉じた。
BCの侵食を促しているのが八雲本人かもしれない。
今この不確定要素を彼に伝える意味はあるのだろうか。いたずらに傷つけるだけなのではないだろうか。
そっと目を開けて八雲を見つめる。ボスはその薄くて小さな唇を少しだけ揺らしたがきゅっと噛んだ。声にしようと思ったものは結局出てこなかった。
「彼女とBCは……無意識でもその能力を使えば使うほど結びついていくと考えられている。最後には彼女自身がBlack Cubeになる。知は最大の力だ。いずれ彼女は奪い合われ、彼女が創り出すであろう理論や兵器は戦争の道具にされるだろう」
「彼女は……旭はどうなるんですか」
やっと音になったような掠れた声が八雲の口から溢れた。不安に揺れる八雲の瞳とオッドアイが交錯する。ボスの口内でキャンディの粒が噛み砕かれた音がした。
「彼女は消える。もしくは奥底に眠るのかもしれない。今二つの人格が共存してると考えてくれたらいい。今の時点では旭小夏が表にでているだけだ。いずれ乗っ取られ、消えるだろう。BCは彼女の中で、ずっと機会を窺ってるんだよ」
八雲はぞわりと全身を駆け抜ける悪寒に拳を震わせた。
鋭い勘が降ってくる前に見せる、ぼんやりと遠い目をした小夏の表情を思い出したからだ。機械人形のように無表情で、周りの空気までもがピリピリとひりつくような。
ーーーあのような状態になってしまうのか?永遠に?
八雲は今すぐ何かをぶっ壊してしまいたい衝動に駆られた。もしくは叫びたい。所構わず何かを傷つけたい。
それを喉奥にグッと抑え込んで目を閉じた。
何故彼女なんだ。
誰が悪いんだ。
俺はどうしたらいい。
なんでこんなに腹がたつんだ。
誰に、何に対してこんなにも……
最初のコメントを投稿しよう!