mission 2

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「八雲」  慈しむように呼ばれた名前にハッと顔を上げた。そこには変わらずまっすぐな目で八雲を見つめるボスがいる。感情のコントロールを失ってしまったのか、八雲は目頭がじくりと熱くなるのを感じた。 「ありがとう。旭小夏を大切に想ってくれて」  言葉の意図が理解できない八雲は、鈍った頭でただぼんやりとボスを見返した。 「僕は諦めないよ。彼女を傷つけずにBCを破壊する方法を最後まで探す。BCの犠牲者は僕と兄で最後だ。彼女は今を生きてる。どうか彼女を支え、守ってやってほしい。いつか彼女がただの旭小夏に戻れる日まで」  八雲は唇をぎゅっと結んだ。拳を握りこみ、浮きだった血管だけを眺める。今こうしないと出してはいけないものが出てきそうだったからだ。 「ずっと考えてたんだ。僕のBCはね、目を閉じるとずっと人間の醜い所ばかり見せてくるんだ。飽きず私利私欲のために奪い奪われを繰り返す。なんで人は戦争するんだと思う? 殺す事が相手を蹂躙するのに一番簡単で手っ取り早い方法だからだよ」  コツコツと指で机を叩きながら、ボスはポツリポツリと言葉を続けた。 「僕はさっき、知は最大の力だって言ったよね。きっとそうなんだと思う。だけどさ、本当は違ってたらいいなって思うんだ。そんなものよりももっと強くて強力で、深くてあたたかいものがある。ねぇ八雲。きっとこの世で一番強い力は、今八雲の胸の中に生まれ始めたものなんじゃないかな」 「え……」  八雲はそっと顔を上げた。ボスは一度だけ柔らかく微笑む。しかし、八雲が口を開こうとした瞬間、ボスは表情をスッと元に戻した。 「しかし。万が一彼女が不可逆的に不特定多数の人間に危害を加えかねない状態になった場合、僕は彼女に対して迷わず一番簡単で手っ取り早い方法をとる。八雲、君はどうする」
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