mission 2

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 八雲は思わず息を飲んだ。ボスは直接的な表現はしなかったものの、小夏がBCそのものになってしまった場合殺すと言っているのは明白だった。  そもそも迷うのが間違っている。放置すれば後々多くの人間に被害が及ぶかもしれない。1人の人間を消すことでその他大勢の人間が助かるなら、とる方法は一つしかない。  八雲は何度も分かりきったことを頭で呟くのに、体の底から叫ぶ答えはその正論とは真逆だった。  震える拳を片手で抑えつける。何度も荒い呼吸を繰り返す。喉奥がひりつき、八雲はあまりの息苦しさに思わず目を強く閉じた。 「俺は……っ、彼女の居ない世界なんて想像できないっ……俺は、俺は……それでも彼女を……旭を守りたい。死なせたくない」  ボスは千切れそうな声で体を震わせる八雲のつむじをじっと眺めていた。 ーーー何が正しくて何が間違ってるんだろう。でも自分が出した答えも八雲が出した答えも、きっと間違いじゃない。だからこんなにも胸が張りさけるほどに痛いんだ。  ボスはそんなことを考えながら、そっと口を開いた。 「分かった。八雲、その時は盛大に親子喧嘩しようじゃないか」 「ボス……俺は……!」 「近々日本に行く。八雲、またゆっくり話そう。今日はここまでだ」 「ボス!!」  プツン、と軽い電子音と共に通信は遮断された。頭も体も複雑な感情で雁字搦めにされ、いっぱいいっぱいのまま、八雲は力なくデスクチェアに座り込んだ。  じわじわと感覚が戻ってくると同時に、手のひらに鈍い痛みを感じた。爪が赤黒く濡れていて、手のひらにはくっきりと爪痕が血溜まりと共に残されている。  こんなに自分を痛めつけたって、何の解決にもならないのに。  八雲は虚ろな目でぼんやりと自分の両手を眺めるしかなかった。
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