mission 3

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 八雲自身、自分がどのくらいそうしていたのか分からないほど座りこんでいた。日が沈み、空がオレンジと藍色のグラデーションに変わり始めている。  つけっ放しのヘッドホンからは小さく生活音が聞こえていた。八雲がふと視線を移した先には、既に通信映像ではなく旭家の様子が映し出されている。  その時やっと、耳に聞こえてくる音はロイが夕飯を作っている音ではなく、小夏が出しているものだという事に気づく。鈍く痛む瞳で小夏を捉えた。小夏は台所でお重箱を広げながら黙々と唐揚げを揚げていた。 「お前……全部知ってたんだろう」  八雲がぼそりと呟く。後ろで夕飯の支度をしていたロイは僅かに八雲を一瞥したが、すぐに視線をまな板に戻した。 「……あぁ」 「一体どういうつもりで彼女を護衛してきた。全部分かって接していたんだろ? お前も、エリザも」 「そうだよ。だからなんだ? 何が言いてぇんだよ」 「お前らは……よく正気でいられるな。まともじゃない」  乱暴にまな板に包丁を叩きつけたロイは八雲の元へ大股で詰め寄る。そのまま勢いよく胸倉を掴むと、自分の視線の高さまで捻り上げた。  しかし八雲の表情はピクリとも動かない。虚ろで、ロイの目を見ることなく斜め下に視線を落としている。ロイは小さく舌打ちすると低く唸るように口を開いた。 「そのすぐ頭に血を上らす性格、どうにかしたらどうだ? まともじゃねぇのはお前だろ。あ? お前それでもプロか?」 「……お前なんかに、分かるはずがない」 「は?」 「あの日……なんで彼女をここに連れてきた。馬鹿にしてたのか? どうせ未来なんてないのに! 彼女の気持ちも俺の気持ちも、お前ら何もかも馬鹿にしっ」  胸倉をより一層強く捻り上げられた八雲は苦しさのあまり言葉を詰まらす。しかし、ロイに視線を移した瞬間、八雲は今度こそ本当に言葉を失ってしまった。  ただただ感情を剥き出しにしたロイの表情。  怒りに狂っているのに痛くて苦しくて仕方がなさそうで、なぜだか今にも泣いてしまうんじゃないかと思うほどに歪んでいた。
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