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「情けないですよね。こんな力を持っているのに私、自分のことなんてこれっぽっちも分からないんです。今自分がどんな状況におかれてるか、全く……でも私、全然怖くないですよ」
小夏はもう一度微笑むと八雲を見上げた。
ーーーなんて悲しい顔をしているんだろう
小夏は胸をチクリと痛ませる。強がりを言ってるとでも思われたのだろうか。
でも、八雲にこんな顔をさせているのは間違いなく自分のせいであること、そして八雲が本当に自分のことを想ってくれているということを、小夏は痛いほど分かっていた。
「さっきのは強がりじゃないですよ。本当です。だって私には……」
小夏はそろそろと両腕を上げると八雲の胸に飛び込んだ。ふと、自分から抱きつきに行くことなんてほとんどなかったなと思いつつ、小夏はそっと目を閉じる。
「私には相馬君がいますから。今日だって学校で助けてくださったでしょう? だからもし私なんかのために何かしたいと思ってくださるのなら、ずっと側にいてください。それだけで私、充分幸せです。他に何も望みません。これじゃ、相馬君は納得できませんか? だめ……ですか?」
八雲はピクリと肩を跳ねさせると、首を強く振った。
「駄目なわけ……ない」
「ふふ、嬉しいです。私、おばあちゃんになるまで元気でいられるのか、はたまた10年後か5年後……もしかしたら明日あっけなく死んじゃうかもしれません。でもそれってみんな一緒です。それでも私今とても幸せです。だから大丈夫なんです。
相馬君、あんまり1人で背負い過ぎないで下さい。私、相馬君からもう充分いーっぱい幸せをもらってますからね」
硬く凍りついた八雲の表情を和らげようと、小夏はそっと両手で八雲の頬を包んだ。そして、いつもの笑顔を見せる。
八雲は小夏の手に自分の手を重ねると、ゆっくりと目を閉じた。
あたたかい。
ずっとこの手を握っていたい。
守りたい。
もし何の役にも立たなかったとしても、自分の何を犠牲にしてでも助けたい。側にいてやりたい。
諦めたくない。
そんなことを考えていると、ふと、八雲の脳裏にロイの言葉がよぎるのだった。
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