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「俺は……いつも自分本位だ。君やロイ達のようになれない。優しくて、いつも人を思いやれるような……」
「そんな。相馬君だっていつも私を思いやってくれるじゃないですか。だから今日、会いに来てくれたんでしょう?」
「無意識だ。気がついたら走っていた。俺は……」
八雲はそっと目を開いた。小夏が上目遣いでじっと自分を見つめている。潤んだ瞳も僅かに染められた頬も、自分の頬に当てられた小さな手も、何もかもに八雲は胸が締め付けられる気がした。
「俺は……駄目だな。君が居なければ……」
「え……」
「今日はずっと君のことばかり考えていた。もし君がいなくなってしまったら、と。息が上手く出来なくて体の感覚が消えていくような気がした。俺はもう、旭のいない世界では生きていけないらしい」
「あの……えと、それはつまり……何といいますか、あっ」
一気に頬を紅潮させた小夏はあわあわとパニックのあまり両手をポロリと落としてしまった。そのかわりに次は八雲の両手が小夏の頬を包む。
目眩がしそうなほど頭に血を上らせた小夏は、先程よりもずっと瞳を潤ませて八雲を見上げた。
そこには見たこともないほど優しく、真剣な眼差しの八雲が小夏を見下ろしていた。
「今更ですまない。でも今俺はやっと分かった気がする。経験したことはないが、きっと間違いない。俺は……
俺は、旭が好きだ」
あまりの衝撃に小夏は全身を震わせた。ぎゅうと抱きしめられると、意識とは無関係に一粒涙が溢れる。それを追いかけるように2つ、3つと次々に涙が溢れていった。
「ほ、本当ですか……?」
「あぁ。俺が冗談でこんなこと言える人間だと思うか?」
「いえ、でもあの……違うんです、私……幸せ過ぎて信じられなくって……っ」
「なんで泣く……」
八雲はぽろぽろ溢れていく涙を一粒ずつ丁寧に指ですくっていった。どれも小さな涙なのにあたたかくて、こんなものにさえ愛着が湧いてしまう。
これが好きだってことなら、俺は知らない間にこんなにも旭を好きになっていたんだな。
八雲は心の中で呟くと、仕方なさそうに微笑んだ。
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