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「ほっ、本当に本当ですか? 私の好きは……その、お友達や家族の好きではないんですよ? だから何かっていうと説明に困ってしまうのですが……」
「分かってる。俺だってそうだ」
「本当に本当に……本当ですか……? 嘘じゃないですよね? 好きだってちゃんと言ってもらえた……夢みたい……」
小夏は涙で濡れた両頬をつまむと左右に思いっきり引っ張った。間違いなく痛い。泣き笑いしながら「痛いです」と言う小夏に八雲は思わず吹き出してしまった。
「わっ、笑わないでください! 私本気で……本当に相馬君が好きですから、だから……」
「あぁ、知っている」
「だから、まだ信じられなくて……」
「……なら、試してみるか?」
小夏がえ?と呟いたのとほぼ同時に、八雲は自分の額を小夏の額にそっと当てた。硬い黒髪が小夏の肌に触れる。
そこからじわりと熱が走り、小夏は思わず目を見開いてしまった。
すぐ目の前には八雲の優しい瞳がある。そっと小夏の両肩を抱くように手を添えると、八雲は静かに目を閉じた。
「俺はヒーローでもなんでもない。奇跡も起こせない。でも君が望むならずっとそばにいたいんだ。嬉しい時は一緒に笑いたい。悲しい時は抱きしめたい。俺はこんな事しかできないが……」
「こんな事、じゃないです。私には奇跡なんかよりも、ずっと……」
視線が混ざり合う。小夏はこれ以上言葉を続ける必要はないと感じた。きっともう、お互い十分に分かりあっている。
八雲はそっと微笑むと片手を小夏の頬に当て、もう一度目を閉じた。
「旭」
「はい……」
「好きだ。
……愛してる」
低くて優しい声が耳から全身へじんわりと染み込む。八雲の鼻先が小夏の鼻に触れた。もう互いの肌の熱も感じられるほどに近い。
どんなに鈍感な小夏でも、この先自分に何が起こるのかくらいは理解できてしまった。目も口もキュッと閉じて、ついには息までもを止めてしまう。
頭の中で血が沸騰し体の力が抜け、思わず八雲のシャツをぎゅっと掴んだ。それに気づいた八雲は空いた片手で小夏の腰を抱きとめる。
もしかしたら自分は今日、幸せに溺れて死んでしまうかもしれない。
熱にうかされた小夏は八雲の腕に体を預けると、その幸せを全身で噛み締めながらそっと、その時が来るのを待つのだった。
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