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「こちらコードNo.8。ターゲットは予定通り通学路を下校中。商店街へ進行した。尾行を続ける」
「No.9了解。今日こそは見つかんなよ」
「チッ、分かってる……」
硬い黒髪を揺らし、小さく舌打ちをした少年は、電柱の影からチラリと顔を出した。その鋭い三白眼が睨みつける先には1人の女子高校生がいる。
ターゲットである彼女は幸いまだ少年の存在には気づいていない様子で、そのまま軽やかな足取りで商店街の喧騒の中へと消えていった。
少年は数メートル先にいつもの隠れ場所であるゴミ置場を確認する。そして、右耳の通信機をもう一度念入りにはめ直すと一目散に駆けて行き、その隣に腰を下ろした。
ターゲットは夕飯の買い出しだろうか、仲よさそうに精肉店の主人と話をしている。
「こちらNo.8。現在ターゲットは三木精肉店にて談笑中。あっあれは⋯⋯!」
「なんだ?! 何かあったか?」
通信先にピリリと一瞬の緊張が走る。少年は制服の胸ポケットから素早く小型の単眼鏡を取り出すと、ターゲットの顔ーーではなく、手元に照準を合わせた。
「特A黒毛和牛コロッケを購入した。昨日町内会報誌で見た店長の新作だ。間違いない」
「おいお前……マジでふざけんなよ、こんっのすっとこどっこい! どーでもいいんだよそんな情報! 俺は周囲を張ってんだからな。お前は兎にも角にも彼女から目を離すな! い、い、な?」
「……了解」
少年はぐるると今にも鳴り出しそうなお腹を抑えつつ単眼鏡をしまい、ターゲットの後ろ姿を見つめた。
ふと、今日は古文の小テストの再々試があったせいで、昼食は10秒チャージの謳い文句で知られたゼリー飲料1袋だけだったことを思い出す。
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