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「先程も言ったが俺は礼が言いたかっただけだ。君のその力のおかげで俺は守られた。君が……旭が気を病む必要はない」
その時だった。
突然小夏が瞳を潤ませたかと思うと、次の瞬間には洪水のように大粒の涙があふれていた。ぼろぼろと拭うことなくこぼし続け、とうとう小さくしゃくりあげ始めてしまった。
八雲は突然のことに目を点にさせ、どうしたらよいのかと所在無く両手を動かした。拷問の際に泣き叫ぶ男の慟哭なら聞いたことがあるが、こうやって目の前で同年代の女子に泣かれたのは初めてのことだった。
「その……何か癪に触ることを言ってしまったのなら謝る。すまない……」
「ちがっ!違います!嬉しかったのとホッとしたのとで……こんな風にお礼を言われたのは初めてですからっ」
小夏は制服の袖で乱暴に目をこすった。自分の能力を話して気持ち悪がらなかったのは祖母と親友以外には八雲だけだ。
でも嬉しくて涙が出たのは初めての経験だったかもしれない。小夏はそんなことを考えながらぽろぽろと暖かい涙をこぼし続けた。
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