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家の塀と店舗の壁に挟まれた裏路地は幅1mもなかった。天気のいい昼下がりであるにも関わらずどんよりと薄暗く、もちろん人通りもない。しかし少年の視線の先には、本来あるはずのない小さな光が不気味に揺らいでいた。
少年は対象を確認すると、その光に向かって足音を消し忍び寄る。そして左手で制服の裾を軽く捲り上げホルスターに手を伸ばし、その中に収納されていた冷たく硬い“ある物”を掴んだ。
「Freeze.動くと撃つ」
冷たい銃口が背中に当てられたその人物は、声にならない悲鳴をあげると、がくりと膝を折って尻餅をついた。手から滑り落ちた光はカシャンと音を立てて地面に落ち、くるくる円を描きながら少年の足元に転がる。
少年は尚も相手に銃口を向けたまま、蔑むように相手を見下ろしていた。その漆黒の瞳は冷ややかで、まるで底の見えない闇のよう。
「旭をしつこく付け回す目的は何だ。言え。この1週間やけに視界にチラつくなとは思っていたが、自宅までつけてきたとは……一体彼女に何の用だ」
「なっ、何で君なんかに言う必要があるんだ? ぼっぼっ僕が小夏ちゃんをみっ、見守るのに君の許可がいるのかい?」
「見守る? 貴様も同業者か? それとも敵か?」
「訳わかんないこと言わないでよ! 君も小夏ちゃんをストーキングしてたんだろ? それならこの写真たちあげるからさ、それこっち向けるのやめてよ。玩具だろうけど、そんなの向けられたらいい気しないから」
尻餅をついた人物、否、学生は情けなくずり下がった眼鏡を持ち上げ、玩具と言う少年の拳銃を指差し下品に笑った。
少年が自分と同じ学生で、恐らく自分と同じ目的であると勝手に信じ込んだ彼は、幾分か声に落ち着きが見られ始めている。
彼は少年の足元に転がった自身のスマートフォンを拾うと、写真フォルダを開き得意そうに少年に見せた。
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