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「そもそも何で俺なんだ……」
「お前がちょうど旭小夏と同じ年だったからだろ」
「一体何に……なぜ彼女はBianCoに狙われている?俺たちは何のために護衛なんかしなければいけないんだ?」
「そもそもBianCoの趣味が俺らの邪魔なんだよ……上手くいかなかったからってイライラすんな八雲。何故かって? ボスの命令だからさ。今までもこれからも、俺らはボスの命令を受けそれをこなす犬だ。駒なんだよ。考えるな。それで飯が食えてんだからな。」
ロイは特に怒るわけでも諭すわけでもなく、ごく淡々と事実を告げる。珍しく八雲はそのまま押し黙ってしまった。
自分はなんて馬鹿な質問をしているんだ。ロイの言う通りだった。八雲たちは皆ボスに拾われ、その恩を返すためにNeRoにいる。疑問も疑いも持ってはいけないのだ。
ロイの肩越しには仏壇らしきものの前に座って微動だにしない小夏の姿があった。髪がモニター越しでも分かるほどぐっしょりと濡れていて、顔を伏せたままピクリとも動かない。
彼女の護衛さえ遂行できればそれ以外はどうでもいいはずなのに、明らかに消沈した姿を見るのは何故か耐えられない気持ちになった。生活を覗き見しているのもどうしてか仕事と割り切れない。
それが罪悪感であると分かった時、八雲は自分のプロとしての未熟さをより一層感じるのだった。
「おい、どこ行くつもりだ」
「少し頭を冷やしに行く」
「おいおい、外は雨だ。そろそろエリザが帰ってくる。さっさと飯食って順番に休まねぇと、夜も交代で見張りだぞ?」
「すぐに……戻る」
ガチャン
狭いアパートに扉が閉まる金属音だけが鈍く響く。ロイはやれやれと頭を掻き、潰れた箱からタバコを取り出すと何のためらいもなく火を付けた。
「ケツの青いガキだこと……」
ふわりと揺らぐ紫煙の先には旭小夏が変わらず仏壇の前に正座していて、辺りが薄暗くなってもそのままだった。
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