mission 3

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「八雲……? あなた何をしてるの?」  アパートの外階段を降りていると、八雲の目の前にブロンドヘアが揺らぐ。護衛を終えたエリザが帰還したところだった。  手にはビニール袋がいくつか握られており、中から弁当とペットボトルが見え隠れしている。 「少し頭を冷やしに……」 「何を馬鹿なことを言ってるの。外は大雨よ? 旭小夏は無事家に帰ってるんだから、もう今日の事は忘れて明日に備えなさい」 「俺は……護衛には向いていない」 「八雲……」  エリザは(たしな)めるように八雲の名前を呟いた。八雲の目は曇り、眉間には深い皺が刻まれている。先程任務を交代させた事が八雲のプライドを傷つけた自覚はあったのだが、まさかここまで尾を引いているとは思ってもみなかった。  一方の八雲も自分がどれだけ情けない事を言っているのかよく理解していた。だけれど姉のような存在のエリザを前に緊張が緩んだのか、溜まった鬱憤を吐かずにはいられなかった。 「八雲、あなた考えすぎなだけよ。別に旭小夏は暗殺対象でも敵対組織でもないわ。ボスの言った事を思い出して。彼女の生活に溶け込めって言ってたでしょう? 無理に距離を取る必要はないわ。いいじゃない、友達になったって、むしろ恋人になったって……」  エリザはハッと口を噤んだ。この話題は今の八雲には地雷だと気付いたのだ。  馬鹿らしい事を言うなと怒り出すのではないかと恐る恐る顔を上げたが、八雲はより一層表情を曇らせ俯いたままだった。思わず拍子抜けしてしまう。  どうやら小夏に罪悪感を抱いているようだ。普通の人間のように、普通の男の子のように。  エリザはそんな八雲の人間らしい姿をみて、彼には悪いのだがどこかほっとするのだった。
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