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「心配なのね、旭小夏のことが」
「そっ……そういう訳では……」
「いいじゃない。そんな八雲の方がよっぽど人間らしくて好きよ」
「からかわないでくれ……俺はプロとして失格なんだ」
「ハァ……八雲はまだ17なのよ? 殺しの腕はプロよ。認めるわ。だけど人間としてはまだまだね」
エリザは手に持った弁当を2つ八雲の手に無理矢理握らせた。八雲は突然のことにうろたえエリザを見上げる。
「何を」
「商店街を通った時、旭小夏が珍しく何も買い物しなかったって店員達が騒いでたの。傘もささずに帰っていったって心配してたわ。これ、持って行ってあげなさい。それで仲直りするのよ」
「何馬鹿なこと言ってるんだ。そんなことできるわけ」
「できるわけない、じゃなくてやるのよ。これも人生経験よ。この先あなたはどんな生き方もできる。無理に私達の世界にいなくてもいいのよ」
「またそれか? 俺は望んでボスの元にいるんだ! それに元々ここに長居するつもりはない!」
八雲はここがアパートの外階段であることも忘れ大声を出していた。エリザは一瞬目を丸くしたが、すぐに気を取り直し表情を元に戻す。
「……分かってる。もしも、の話よ。気を悪くしたのならごめんなさい。でもどちにしろこんな社交性の低いエージェント、NeRoにはいらないわよ?」
「ぐ……」
八雲は苦虫を噛み潰したような表情で弁当の袋を見た。そもそもどんな理由で家に行けばいいんだ。なぜ家を知っていると聞かれたら?もはやストーカー案件だ。
何も思い浮かばない。これが社交性が低いという事なんだろうか。
八雲は仁王立ちしているエリザの顔を見て、小さくため息をついた。
「……分かった。善処する」
「頑張りなさい八雲。どちにしろこれ以上ターゲットとの仲が悪くなると後々面倒よ。仲良くなった方がいいに決まってるんだから。今回のミッションに関してはね」
「……分かってる」
八雲はエリザの隣を通り、とぼとぼと階段を降りていった。その情けない背中といったら。まさか彼が殺しのプロだなんて誰も思わないだろう。
エリザは八雲の背中を眺めながら、なんてしょうがない子、と苦笑した。
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