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「相馬くん……っ!」
小夏は八雲の存在に気づくと、雨が降っているのも構わず走り出した。門扉を開け一目散に八雲の元までやって来たのだが、ふと何かに気づいたように体を震わせると一歩下がってしまった。
「……その……勘でして……何かが外に居るような気がしただけで、それが相馬君だとは知らなかったんです。ごめんなさい……」
「何故謝る?」
「だって……私が変な事を言ったせいで相馬君に嫌な思いをさせてしまったから……怒らせてしまって……」
そこまで言うと、小夏はまたもや瞳に涙を溜め始めた。八雲はびくりと肩を揺らすと、急いで距離を詰めて自分の傘を小夏の頭上にかざした。
「その……君は何か勘違いをしている。俺は嫌な思いもしていないし怒ってもいない。寧ろ俺の方が……」
そういうと八雲は気まずそうにぐっと口を結んだ。慌てて無意識に言葉を吐いてしまった結果、自分が小夏に謝ろうとしている事に気付いたのだ。
必死で公私の私の部分を消し去ろうとしていたのに。どうでもいい事だと割り切ったはずなのに。
目の前でこんなに華奢な女子に泣かれると、八雲のつまらない決意など早々に崩れ去ってしまうのだった。そもそも泣かせてしまったことの方が男としても情けなく思えてしまう。
八雲はいつのまにか自然と素直に口を開いていた。
「俺が悪かった。そもそも俺は人付き合いがあまり得意じゃない。それに君が思うような……善人でもない。そばに居られるといつ無意識に傷つけてしまうか分からないんだ。だからわざと……」
「わざと遠ざけるような事を……?」
八雲は羞恥で悶えそうな体を何とか制し、ひとつだけ小さくうなずく。すると小夏の顔にはみるみる生気が戻り、涙をぽろぽろとこぼしながらやっといつもの笑顔で微笑んだ。
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