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「よかった……私嫌われてしまったと思ったんです」
「そういうわけでは……! ない。決して、ない」
「よかった。安心しました。告白なんて人生で初めてのことだったので」
「うっ……」
八雲の顔が一気に青ざめる。
そういえば告白を受けていた事を今更になって思い出したのだ。どうにかしなければと口をもごもご動かすが、気の利いた言葉は何一つ出てこない。
そんな八雲に気づいたのか、小夏はくすくすと笑って涙を拭いた。
「相馬君、心配しないでください。確かに私は相馬君を好きだと思いました。一目惚れです。でも今すぐどうこうなりたいわけではないんですよ」
「そ……そうなのか?」
「はい! もちろん相馬君が今すぐやめてくれと言うのなら努力しますが……」
小夏はポツリと呟き、悲しそうに眉根を下げたまま微笑んだ。これ以上傷つけたくない。咄嗟にそう思った八雲は2、3度深呼吸し呼吸を整えると、おずおずと右手を差し出していた。
「とっ……友達からでどうだろうか。俺はまだ君のことを何も知らない。これからその……色々と教えてほしい。日本のこと、学校のこと。それと……君のことも」
小夏はぱっと顔を上げて八雲を見た。雨で冷え切っているのに八雲の顔は茹でダコのように赤く、差し出された右手はわなわなと震えている。まさか八雲自身が頭の軽い行為と罵っていたその言葉をそのまま吐いてしまうとは思ってもみなかったからだ。
小夏は必死過ぎる八雲の姿に胸がぎゅっと締めつけられ、思わず笑顔がこぼれた。差し出された八雲の右手をそっと両手で包む。なぜか傷跡だらけでゴツゴツしていたのだけれど、彼の手のひらは冷たい雨の中でもとても温かかった。
「相馬君は違うとおっしゃいましたが私はやっぱり思うんです」
「何が……?」
「相馬君はとびきり優しい人です。誰が何と言おうとそうです。これは、絶対なんです」
八雲は胸がギュッと締めつけられる思いがした。お腹の底がふわふわとくすぐったい。これはずっと忘れかけていたが、間違いなく嬉しいという感情に近かった。
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