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「これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ……よろしく頼む」
二人は握手を交わし、お互いに目を合わせた。小夏がとても嬉しそうに微笑むので、仏頂面が張り付いた八雲でもほんの少しだけ笑顔がこぼれてしまうのだった。
「はっ……お互いびしょ濡れですね。タオルお貸ししますからどうぞ中へ!」
「そうだ忘れていた。あの……弁当を持っているんだ。その、たまたまだ。たまたま通りかかってたまたま旭が居て、その、買いすぎたんだ。夕飯がまだなら貰ってくれると嬉しい。冷えてるが……」
「大和屋さんの幕内弁当…! 素敵です! いいんですか? ありがとうございます!」
八雲は我ながら酷い言い訳だと落胆したが、幸い小夏はかけらも気にしていない様子だった。
玄関を開けながら振り返る小夏の顔が土砂降りの中でもとても輝いていて、それはまるで幼い子どものようで。八雲はあの時帰らなくてよかったと心から思うのだった。
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