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足元ばかりを見て無心に歩いていた少年は、少し前から他人に見られている事に全く気がついていなかった。
そしてその相手は自分が尾行していたターゲット、そして先程まで盗撮被害を受けていた女子、 旭 小夏に違いなかった。
「あっ旭……いつからそこに……?」
「ほんの先程からです。忘れろ忘れろーって念仏を唱えられていたあたりから」
小夏はにこりと笑うと、少年とはうってかわって溌剌とした声で答えた。
まさか声に出ていたとは。
少年は自分の失態に頭を抱えた。学生が見せた盗撮写真は、少年にとってそれほど衝撃的だったのだ。
「それより何故こんなところに? いや、もしかしてまたあの……勘、か?」
「はい、勘です! 何かあるような気がしてお外に出てみたらやっぱり相馬君がいました。相馬君は今日もお散歩ですか?」
「…………あぁ、そうだ」
少年は諦めたように言葉を零した。残念ながらこのような事は初めてではない。そして、その度につく嘘がお散歩であった。
相馬君、と呼ばれたその少年は自分の尾行が甘いとは思っていない。これも生業のひとつとしていたし、今までのミッションで失敗したことなど一度もなかった。
なのに彼女の尾行だけは毎度毎度上手くいかない。いつも上手くいきそうだ、と思った瞬間、こうしてひょっこりと現れるのだ。
そしてそれは彼女の“勘”によるものだという。なんとなくそこに何かがいるような“気がする”らしい。
こんな裏路地でお散歩など酷い言い訳だと愕然としていたが、彼女は少年を追求することなく、いつものようににこにこと微笑んでいるだけだった。
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