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授かったチートは可愛いだけじゃないらしい
僕の振るう刃が魔物の皮膚を切り裂く。
「くそっ・・・!」
しかし魔物の皮膚は、思ったよりもずっと厚いらしい。
力の限り振るったが、剣は魔物の皮膚を数センチ程の深さしか切り裂けず、触手を切断するには程い。
「なっ!? なんで戻ってくるのよ!? バカじゃないの!!!」
ミナトの罵倒が聞こえるが、気にしない。
もう一度、剣を振り上げて魔物へ斬り付ける。
しかし、触手を斬り倒すには全然力が足りない。
触手が、先端をぐるりと動かして、こちらを向く。
「よ、よし。こっちだ! この化け物め!!!」
それでいい。倒せなくても良い。
注意を引きつけて、彼女が逃げる時間さえ稼げればそれでいい。
触手の身体が蠢き、凄まじい迫力でこちらへ迫って来る。
後は、走って逃げるだけだ。
そう思った瞬間。
「う"わっ!?」
突如、目の前の壁が砕け、崩れ落ちる。
そしてそこから、黒く巨大な影が覗く。
現れた何本もの魔物の触手が、僕の行く手を遮る。
「あ・・・あぁ・・・!?」
考えが甘かった。
僕の考えは、なんて浅はかで、陳腐なものだったのだろうかと思い知らされる。
剣を構えるが、恐怖で腕が震え、力が入らない。
そして。
「うぐぅっ!?」
触手の一本が、凄まじい速さで襲いかかってきた。
避けようと身体を動かした時には、既に遅い。
おぞましい質感の触手が、僕の身体に絡みついていた。
「ぐぁ・・・! くそっ!!!」
触手に剣を突き刺し、精一杯の抵抗を試みるも、魔物はそんな攻撃効いてないと言わんばかりに、次々と身体に絡みついてくる。
もはや、僕の力では到底逃れられないだろう。
「嫌だ・・・! やめろ・・・! 離せ!!! 離せってば!!!」
僕は、このまま締め付けられて圧死するのだろうか?
それとも、引きちぎられてしまうのだろうか?
それとも、本体の巨大な口で、生きたまま呑み込まれてしまうのだろうか。
僕は、死を覚悟した。
「っ・・・!」
・・・何も感じない。
「ぅ・・・?」
痛みも何も感じない。
・・・もしかしたら、僕は何も感じる間もなく死んでしまったのだろうか?
恐る恐る、目を開く。
「・・・あれ?」
どうやら、僕はまだ死んでないらしい。
それに。
「どういう・・・こと?」
魔物の触手は僕の身体を解放し、まるで飼い主の指示を待つ犬の様にじっとしていた。
何が起きたのかわからないが、今のうちに逃げた方が良さそうだ。
触手を刺激しない様に、ゆっくりと触手から離れる。
「そうだ、ミナトさんは!?」
慌てて彼女の姿を確認すると。
ミナトは、驚いた顔を浮かべて僕を見ていた。
「アンタ、なんで無事なの? なんで魔物が急に大人しくなったの・・・?」
そんな事、僕が知りたいくらいだ。
魔物は間違いなく、僕を喰い殺す勢いで襲いかかってきた。
一体、何が起きたと言うのか。
「ぐあぁっ!!!」
その時、ヒノの悲鳴が響く。
「あら、良い悲鳴」
見ると、ヒノは床に倒れこんでおり、殺人鬼の女性に追い詰められていた。
「ヒノっ!!!」
ミナトが叫ぶ。
迷っている暇はない。
僕は剣を構え、女性へ向かって走り出すが。
「ふふふ。ゆっくり解体してあげる」
女性がナイフを振り上げる。
「安心して? 人をバラすのは慣れてるから、たっぷり苦痛を感じさせてあげる」
間に合わない。
誰か。
誰か、彼女を助けて・・・!
「・・・へ?」
その時、天井が、壁が突き破られ、黒く巨大な物体が現れた。
巨大な魔物の本体だ。
そして。
「あら? なに? どうしt」
魔物が大顎を開いたかと思った瞬間。
その巨体からは想像出来ない速さで・・・。
飼い主である、殺人鬼の女性の上半身に喰らい付いた。
魔物の鋭い牙が、女性の体を容易く真っ二つに裂く。
残った女性の下半身が、血を噴き出しながら床に転がり落ちる。
「え・・・?」
ミナトが、ヒノが、そして僕も。
何が起きたのか理解出来ず、ただ呆然とその光景を眺めた。
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