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屁えこいたのはドイツ
警察庁祓魔課の残留
ドイツの夏は暑くもあったが、ベルギー王室から頂戴した城は、山中のある高地に立っていた為意外に涼しくもあった。
割とスイスに近い避暑地と言えた。
昔、かのアドルフ・ヒトラーの滞在場所になっていたという話は、何となく信憑性があった。
城の上階にビーチチェアに寝そべる二人の父親の姿があった。
島原雪次は懐かしいセレブな夏期休暇を満喫していた。
息を吐いて島原雪次は言った。
「大学時代はいつもこんなだったな」
「たまにはいいだろう。こういうのも。お前も災難だったな。何で撃たれんだお前は。お前が撃たれなきゃそもそも起らなかった事件だ。眼鏡とは仲良くしてるのか?」
「いきなり複数人に囲まれて発砲されたんだ。チャールズ・ミンガスに会うし散々だった。志保とはまあ、お前に言われるまでもない。しかし勘解由小路、祓魔課は俺不在で大丈夫なのか?」
「問題ないだろう。静也はさっさと帰国した。残っているメンツはライルに田所、温羅もいるしな。猫の奴もまあいるし、あとはーー」
その時、向こうで騒ぎが起きていた。
騒いでいるのは勘解由小路姉妹だった。
「流石にアッタマきたぞあんたは!」
「ふん。屁こき小学生め。恥ずかしい娘が何騒いでんのよさ」
「何をお前はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!」
「フシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「何を揉めているんだ?」
「うっかり屁えこいた碧を莉里が笑い物にしたんだな。おーい揉めるなお前達。母ちゃんだって昨日子作りしてた時に、ああ、あれは屁じゃないんだ。ちょっと空気がな」
「降魔さんその話はしない約束ですよ?異世界をお忘れですか?」
背後に立った真琴がいた。
「肩をぎゅっと掴まれてる。爪が食い込んで。うんごめんな真琴。噛まないで。二人を止めてやってくれ」
薄いスッケスケのカーディガンを翻して恐怖の母親が言った。
「やめなさい二人共。パパが怒りますよ?パパが怒ったらママは残念ながらそうせざるを得ません。莉里ちゃん。40回」
「ホント死ぬわああああああああ!ごめんなさいパパ!この屁たれ女が!」
「ああああああああ!やってられるかあああああああ!私帰る!轟さんヘリ出せ!こんなクソ城いられるかあああああああああ!」
碧はヘリに乗って行ってしまった。
「蛇っ子の家出か。しょうがないな。でも碧なら大丈夫だろう。ホームアローンは成立しないのがうちだからな。誰かが常に家にいる」
いきなり出鱈目な家族の姿があった。
向こうではスカイブルーのおしゃれなワンピースを着た真帆が、所在なさげに飛び去ったヘリを見上げていた。
「ああ。碧ちゃん行っちゃったね。僕を残して」
「いいの?流紫降君」
実際白いワンピースを着た流紫降はどうみても女の子にしか見えず、真帆と向かい合っていても幼い二人の娘にしか見えなかった。
「ちょっと寂しいけど、日本で元気にやってると思うよ。ねえ真帆ちゃん、僕達も行こうよ。城の向こうに綺麗な森があるんだ。僕の妖馬に乗って行こうよ。森にいて友達になったんだ。農耕馬みたいに大きいけど大人しい良い子だよ」
差し出された大きな麦わら帽子を被って、真帆は流紫降の手を取り歩いて行った。
「子供がそれぞれ楽しんでいる隙に親は親で楽しもう。真帆坊は流紫降といる。この世で最も安全だ。バーベキューでもしよう。ベルギーの奴等が置いてったいいワインがある。どうだ?」
無責任な父親の誘惑に、責任感のある父親は少し考えて、立ち上がった。
「お前がいいというならいいんだろうな。行こうか。ワインに期待大だ。志保はどうした?そう言えば真琴君は、何故マイクロビキニだったんだ?」
「女達は向こうでバスキング中だ。おお焼けているな。美味い肉に酒、水着姿の嫁。最高の夏休みだな」
「いい風が吹いている」
青空に、低い雲が影を落として流れていった。
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