僕の話

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「あんたが彼女を好きになったのは、彼女があんたの傍に居たから。 家族以外で最も、あんたに近い存在だったから。 その理由をきっかけにする人は、あんただけじゃないよ。 でも……」 友人の次の言葉を、僕は予想した。 けれど、その予想を友人は否定した。 「確かにあんたは彼女が、好き。 大好き。 ライクでもあって、ラブでもある。 それは確かだと思う。 恋かどうかは…… 恋でもあると思うけど、本当のことはわからない。 それは、あたしが他人だから。 それに、本人であろうと、本当のことがわかってないこともある。 『好き』のかたちは色々ある。 知っての通り、あたしは色々の中の少数派。 でも、あたしは悪いことだとは思ってない。 あんたも悪いことだとは思ってないでしょ。 悪いことじゃないよ……きっと。 どんなかたちの 『好き』 だっていい。 でも、 でもさ…… あんたの 『好き』は…… ――真っ直ぐ、彼女だけに向いてる?」 ありのままの友人の言葉は、刃となって僕へと向く。 「"彼女のことが好き" あんたにとって、 それは、一部。 それは、方法とか手段。 ……ねぇ、 あんたは、お菓子を作ることが好きだよね?」 否定しない。 何故なら、ここは製菓の専門学校だからだ。 僕は、肯定する。 けれど…… 「お菓子作りは、時間が、場所が、知識が有れば、できる。 普通のこと。 それを特別にしたのは、"バレンタインデーに、彼女に逆チョコレートを贈ること"。 つまり……」 刃の切っ先が、刺さり、貫く。 「あんたが、 "本当" に好きなのは…… ――"逆チョコレートを作ること" だよ」 …… 否定しなかった。 肯定しなかった。 僕は、どちらもすることができなかった。
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