私の話

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それから、ずっと…… 彼は私に、逆チョコレートを贈り続けた。 両親から貰うお小遣いは多くはない。 それを、私への……家族へのお菓子を作るために費やしていた。 お菓子を作る場所は、自宅のキッチン。 バレンタインデーの前日に。 仕事が休みで父か母が家に居る場合には、前々日に。 父と母が居ない間に。 私達家族の食事は、主に彼が作っていた。 お菓子も度々、作っていた。 後に、製菓の学校へと進む。 それは、"お菓子を作っても良い" 理由になった。 ……だとしても、 逆チョコレートを作っていることだけは、知られたくはなかったのだろう。 調理器具を元在った場所に仕舞って、零れ落ちた製菓材料を綺麗に拭き取って、換気扇を回して甘い匂いを外へと追い出す。 逆チョコレートを作った痕跡を、一切、残さないようにしていた。 私は知っていた。 家に居ることもあった。 でも……キッチンには絶対に入らなかった。
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