僕の話

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――― 同じ造りの2つの扉の間で、手を振り合う。 自宅の扉を閉めるなり、僕は母の姿を探す。 仕事で家に居ないことが多い父。 専業主婦で常に家に居る母。 毎日、帰宅すると、 僕は母に、笑顔で、彼女の話をする。 母も僕から、笑顔で、彼女の話を聴く。 ある日、母が僕に尋ねた。 「あの子に、『好き』 って伝えないの?」 顔を真っ赤にして(うつむ)く。 そんな僕を、呆れたように、愛しそうに見つめる母。 「じゃあ、プレゼントをするのはどう?」 それならば、僕にもできそうだ。 「あの子の好きな物は、なぁに?」 唇に指を当てて考え込む。 そういえば…… 彼女の部屋で遊ぶ時には、いつもお菓子がある。 それは、その味は、どれも…… 「チョコレート」 母も、唇に指を当てて考え込む。 母が僕の真似をしているのではなく、僕が母の真似をしているのだ。 不意に、母の指が跳ねた。 「良い事を思い付いた!」 母が、"ちょっと悪い" 笑顔になった。 この表情が作られた時、良い事が、稀に……悪い事になることがある。 とても、かなり、うんと……それくらい悪い事に。 「もうすぐ14日よね。 バレンタインデーに、チョコレートを贈りましょう!」 良い事なのか悪い事なのか判らず、首を傾げる僕。 何故なら…… 「チョコレートは、女の子が男の子にあげるものだよ?」 「チョコレートを、男の子が女の子にあげてもいいのよ。 それを、『逆チョコレート』っていうのよ」 大人の母は、子供の僕に、新たな知識を授けた。 「お母さんと一緒に、チョコレートのお菓子を作りましょう!」 …… チョコレートが好きな彼女と、彼女が好きな僕。 僕は、大賛成した。
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