僕の話

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● バレンタインデー前日。 僕は母と共に、街へと出掛ける。 街は、いつもとは様子が違っていた。 ベールで覆われているようだ。 淡く優しい、濃く深い、 様々な――赤い色の。 擦れ違う人の殆どが女性で、心なしかお洒落だ。 2月。 晴天でありながらも吐息が白くなり、足元は太陽の光を薄く反射している。 そんな中、母はハイヒールを履いていた。 飾り気も化粧気も無い母。 けれど、この真っ赤なハイヒールだけは、時期と場所を選ばず愛用していた。 父からのプレゼントだ。 どこからともなく、音楽が流れている。 そこに、母がヒールでコンクリートを打つ音が重なる。 明るい調子の音楽に合わせて、リズミカルにステップを踏む。 母と手を繋いでいた僕は、母とダンスをしているかのように感じていた。 ハイヒールの色と同じくらい、母の頬が赤い。 きっと、母の頬と同じくらい、僕の頬も赤いのだろう。 その理由は、寒気、そして――"魔法" だ。
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