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バレンタインデー前日。
僕は母と共に、街へと出掛ける。
街は、いつもとは様子が違っていた。
ベールで覆われているようだ。
淡く優しい、濃く深い、
様々な――赤い色の。
擦れ違う人の殆どが女性で、心なしかお洒落だ。
2月。
晴天でありながらも吐息が白くなり、足元は太陽の光を薄く反射している。
そんな中、母はハイヒールを履いていた。
飾り気も化粧気も無い母。
けれど、この真っ赤なハイヒールだけは、時期と場所を選ばず愛用していた。
父からのプレゼントだ。
どこからともなく、音楽が流れている。
そこに、母がヒールでコンクリートを打つ音が重なる。
明るい調子の音楽に合わせて、リズミカルにステップを踏む。
母と手を繋いでいた僕は、母とダンスをしているかのように感じていた。
ハイヒールの色と同じくらい、母の頬が赤い。
きっと、母の頬と同じくらい、僕の頬も赤いのだろう。
その理由は、寒気、そして――"魔法" だ。
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