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―――
バレンタインデー翌日。
僕は、いつもとは異なる硬い表情で、彼女の家の呼鈴を鳴らす。
対して彼女は、いつもと同じ柔らかい表情で、僕を出迎えた。
彼女の部屋、その机の上には、やはりチョコレートのお菓子があった。
しかし、いつもと同じではなかった。
今日のチョコレート菓子は、特別だった。
チョコレートの王様とも呼ばれる、ザッハトルテ。
しかも、ホール。
それも、手作りであり、彼女が彼女のお母さんと一緒に作った物だった。
とても美しく、とても美味しそうだ。
実際のところ、美味しかった。
名店にも引けを取らないに違いない。
僕と母が作った物とは、月とすっぽん。
いや、雲泥の差。
彼女は、僕からの逆チョコレートに驚いていた。
けれど、僕と母の手作りのチョコレート菓子に対して、不出来で不格好なプレゼントに対して、がっかりすることも、馬鹿にすることも無かった。
僕の一番の成功作を、口に放り込む。
……
彼女の顔に、笑みが浮かんだ。
僕の好きな笑顔。
いつもよりも、素敵な笑顔。
彼女は言った。
「これからも、逆チョコレートを頂戴ね」
これは、小学1年生のバレンタインデー。
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