「サバイバーズ・ゲーム」

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 頚城は牙を光らせながら、自分の将校服のスカートをめくって、太ももに取り付けたポーチから小さいスティック状の物体を取り出した。  一体何をするのかと注視していると、頚城は右手の指を素早く動かして、その物体からチャキンッと銀色の刃を取り出した。  これは、バタフライナイフだ。 「これをやろう。わしとの親睦の印じゃ」 「……どういうつもりだ?」  頚城といい石鎚といい、変人の行動は突拍子もない。 「玩具の銃では、その可愛らしい恋人は守れんぞぉ? 周りを見ろ。嫉妬する男どもの視線に気付かんか?」  言われて周囲を見渡すと、そこで初めて僕は、武装した男たちの殺気立った視線に気が付いた。  この場には男性の方が多く、メイド服を着た恋人を連れた僕の姿は想像以上に目立っていたようだ。  不条理な状況に対する不満を、僕に叩きつけたくて仕方が無い空気が漂っているように見える。  何人かは下卑た笑みを浮かべて斐月を見やりながら、こそこそと何かを話し合っていた。  不穏な寒気を感じて固まる僕に、頚城はバタフライナイフを差し出す。 「ここにはお巡りさんなど一人もおらんよ。無法地帯じゃ。最悪の出来事が起こった時、恋人の身は、自分で守るしかないぞ」    そう言って頚城はバタフライナイフを畳み、僕の手に握らせた。 「竜崎さん……心配しないでください。自分の身は自分で守れますから。そんな怪しい話に付き合わない方が良いですよ」  訝しむ目つきをする斐月に対し、頚城はフッと笑う。 「そうだと良いんじゃがな。わしにも、命懸けで守らねばならん娘たちがおる。お互い頑張ろうじゃないか」  頚城は母親のような慈愛の眼差しを、遠くで話し合っている仲間二人に向けた。  どうやら彼女たちには並々ならぬ思い入れがあるようだ。  僕が返答に迷っている間に、頚城は颯爽と立ち上がった。 「敵には情けなど不要。躊躇わずぶっ殺すんじゃ。さもなければ、誰も守る事などできんよ。心してかかれ、竜崎」  振り向かずに背中でそう言った頚城は、仲間の元に戻っていった。
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