938人が本棚に入れています
本棚に追加
僕はゆっくりと立ち上がり、天井を見上げた。
その場の全員が話を止め、不穏な顔つきで音楽に聞き入っている。
音楽が佳境に差し掛かると共に、天井全体が眩しく輝き始め、黒い人影が降りてきた。
それは、漆黒のドレスを身に纏い、顔の上半分を隠すマスクを被った一人の女性。
両腕を広げて衣装を優雅になびかせながら、一同を魅せるように宙をゆらゆらと舞う。
「なんだよ、あいつは……!」
内海はM590ショットガンの安全装置をパチンと解除して、構える。
その女性を見た僕は、ひとつの像を思い描いた。それは────死神。
<紳士、淑女の皆様。本日はお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。わたくしは、今回の進行役を務めます、ヴァルキューレと申します。
皆様は、栄えある【異世界サバイバーズゲーム】のプレイヤーとして、この世界に招待されました>
僕は驚愕して、咄嗟に自分の頭を押さえた。鮮明な女性の声が、頭の中に直接聞こえたのだ。
斐月も内海も、僕と同じ反応をしている。
<これから皆様には、またとない偉大な勝利と栄光を掴むため、このゲームに挑んでいただきます。皆様が日頃より培ってきた真の生存能力が、いま試されるのです。
異世界で英雄に成る夢を見たことはありませんか? このゲームなら、誰でも等しく英雄に成り上がるチャンスがあるのです>
「ゲームだって……?」
あちこちの床に、黒い魔法陣が次々と現れた。
そして魔法陣の中心から、アンティーク調の黒いスーツケースのような箱が浮き出てくる。
<それでは早速、皆様にスタートアイテムを支給します。アイテムボックスは、ここに集まった人数と同じ、六十個あります。この時点では奪い合う必要はありません。お一人様につき一個、お好きなアイテムボックスをお手に取り下さい。
なお、このスタート地点に限り、プレイヤー同士のあらゆる暴力行為は固く禁じられています。もし違反した場合、極めて重大なペナルティが科せられます。ご注意ください>
僕は思考を整理するだけでいっぱいになっていた。
いったい、何が始まろうとしているのか。
泳いだ視線の先に黒い箱がある。最初のアイテムが入っているという箱だ。
あれを取ったら、もう後戻りはできない。そんな予感を強く覚えた。
最初のコメントを投稿しよう!