「サバイバーズ・ゲーム」

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「どうすんですか、やべーですよ。良いアイテムは全部取られちゃいますねえ」  煙草の女性が他人事のように言って、ガスマスク男が居なくなったことをいい事に自分の煙草に火を点ける。  それを咎める心の余裕がある者は無く、宮代は大きな溜め息をついた。 「薄々気付いてるとは思うけど、このアイテムボックス……間違いなく武器が入ってるわ。フィールドに出たら、殺し合いになる。最悪ね」  すると、思い詰めた様子で魔法陣を見つめていた旧日本軍の格好の男性が、アイテムボックスを床に置いた。  丸眼鏡を掛けている素朴な顔立ちで、歳はおそらく四十代くらい。   「こんなふざけた殺し合いに乗るべきではない。武器を与えられたとしても、使う訳にはいかない。みんな、そうだろう?」  ようやくまともな意見を言ってくれる人が現れたと、僕は安堵する。 「私は、吹仲要一郎。今はこんな格好だが……中学校の教師をしていて、家には二人の息子がいる。みんなも、名前があって、生活があって、家族がいるだろう。身勝手な人殺しをして、私たちは胸を張って家に帰る事が出来るのか? いや、そんな事は断じて出来ない」  そう強く主張した吹仲は、まるで生徒を相手するように僕たちの顔を順番に見る。 「私たちは誇りある人間だ。遊びで殺し合いをする下劣な獣ではない。みんなで武器を捨てよう。こんな物を持っていたら、心が悪魔に囚われる」  僕は頷きかけたが、どうやら他の女性陣はそうではないようだ。  煙草の女性が、わざとらしくプハーッと煙を吐く。 「断ります。男なら良いんでしょうけど、私は武器を持った野獣には勝てませんから。もちろん殺人は嫌ですよ? でも相手が殺しにかかってくるなら、全力で抵抗します。死に方くらいは自分で選びたいですから。丸腰で敵陣に入って和平を呼び掛けるなんて、大馬鹿のやることです」  返す言葉に迷う吹仲に、彼女は畳み掛ける。 「あと、私は両親に絶縁されて独り暮らし中のしがない派遣労働者で、家賃も滞納気味で住処すら追い出されそうです。素敵なマイホームがある先生とは違うんですよ。守りたい家庭も誇りもない。大切なのは自分の命だけです」  彼女は、壁に立てかけていたアイテムボックスを軽く蹴った。 「私がここに残ったのは、最前線に出るのが嫌だったからです。勘違いしないでください」  すると今度は僕を見て、レッドチームの方を指差す。 「竜崎、でしたっけ? こんな所でうろうろして良いんですか? 恋人を助けないといけないんじゃないですか」
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