「サバイバーズ・ゲーム」

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「おい、てめえ! こんな所に俺たちを閉じ込めて、得体の知れねえゲームをやれだって!? ふざけんじゃねえ!」  唐突に、一人の中年男が怒鳴り始めた。 「やってられるかよ! 棄権だ、棄権! どんなマジックか知らねえが、さっさとここから出しやがれ! 訴えてやるぞ!」  彼の周囲の人間は、恐る恐るその男から距離をおいていく。  内心では皆、彼と同じ事を考えているだろうが、この異常すぎる状況下で、『極めて重大なペナルティ』という言葉がいやに引っかかる事もあり、表立って反論する勇気は無いのだろう。 <まだルールを何も説明しておりませんが、菅原様、本当に棄権という事でよろしいですか?> 「当たり前だろ馬鹿野郎が!」 <分かりました。菅原様の棄権を承認いたします。それでは────さようなら>  汚い言葉で喚き散らしていた菅原の動きが、急にピタリと止まった。  菅原は驚愕の表情で、自分の右手に恐る恐る視線を向ける。  ずる、と音がして、菅原の右腕が床に落ちた。  一瞬で鋭利に切断された右肩の断面から、鮮血が溢れ出す。 「うわ、うわぁああああああああああああああああ!!!」  菅原が絶叫する。  瞬く間に、場は悲鳴の渦に包まれた。  続いて、菅原の右足に白い閃光が走った。  助けを求めようと踏み出した彼の右足が、ぼとりと転がって落ちた。  そのまま派手に転倒した菅原は、自らの血の海の中で泣き叫ぶ。 「いたい、いたいぃいいい……!! たすけ、助けてくれええええ……! 誰か、誰かぁああ……!!」 <これが貴方の選択ですよ、菅原様。棄権を決定したプレイヤーは、その場で殺害させていただきます。望むべき展開ではございませんが、皆様もゲームを放棄したい際は、その旨をいつでもお申し付けください。責任をもって、処理させていただきます>  不意に地面が波打ったかと思うと、菅原の周囲の床がスライムのように変質し、彼の身体はその中へ徐々に沈み込んでいく。   「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」  壮絶な悲鳴と共に、肉を引き裂き、骨を擦り潰す音が響き渡った。  この床が、菅原を喰っているのだ。  やがて菅原の断末魔は尽き、肉片を咀嚼する音だけが聞こえるようになった。  そしてついには彼の血すらも無くなって、後には元通りの硬い白い床だけが残った。
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