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第十七話 姫騎士の提案
「これで判っただろ? そもそもお前のその筋肉は無駄が多い。相手を威圧するためだけの見せかけのものだ」
「くっ! この俺のクラスが筋肉戦士だと判っていっているのか――」
「だからどうした? だから私はクラスなどで決めるのはくだらんと言っているのだ。勿論自分の特性を知るのも大事だが、クラスを盲信するばかり貴様のように間違った方向に突き進んだりする」
筋肉ダルマのサドデスがギリリと奥歯を噛みしめる。よほど悔しいのだろうな。
だが、カテリナの言っている事に間違いはない。実際こいつのステータスを見ていると称号は――
称号
筋肉の塊
全身これ筋肉といった姿に。筋力が更に増える。その代わり柔軟性とスピートと器用さが著しく低下する。
こんな表示が出てくるぐらいだからな。こっちの世界は看破してステータスとしてみるとしっかりスキルや称号の説明まであるのは親切だけどな。
それにしてもこいつ自身はこれをみても何も思わなかったのだろうか? 単純に筋肉が増えた喜びのほうが大きかったのかね。失うもののほうが明らかに多そうだけど。
「とにかく、武器も持たない私にすらこうもあっさり負けるようでは話にならない。やはりお前は指導官失格だ、今すぐここから出て行くがいい」
「――くっ!」
プルプルと震えながら相手が姫様にも関わらず野獣のような目で睨みつけているな。
そんな真似して大丈夫なのかね。
「少しお待ちを姫様。先程も申しましたが、この訓練に関しては私が一任されております。いくらカテリナ殿下のお言葉でも――」
「言っておくがオニス貴様もだぞ?」
「……は? え? わ、私もと言うと?」
「貴様にはあまりに不備が多すぎる。お前が部下だと言ったこのたわけの行為を黙ってみていたのもそうだが、先程の魔法の暴発などあってはならぬことだ。どうやら不発で終わったようであるし、私であればあの程度どうとでもなったが、もしあれがここにいる誰かとの訓練中に起きていたらどうなる?」
どうとでもなったのか……いや、そんな気はしたけどな。ちょっと余計な事をしてしまったかな。でも、それであいつの付け入る隙を与えたらそれはそれで癪だしな。
まあ、どっちにしろこの姫様の言っていることはかなりの正論だ。しかもユウトのように無謀なものではなく、自分の立場を理解した上で話しているから説得力がある。
「それは、その――」
おっと、こっちの鬼軍曹は急にしどろもどろになったな。まあ、それはそうだろうな。
あれは暴発じゃなく自分が指示してやらせていたことだろうし。
尤もこの姫様はそれを判った上であえて遠回りに伝えてる気がするけどな。
「とにかく、オニス、お前にも教官としての責任がある。この件は後で私からも報告書にして提出させて頂こう。そして本日に関しては貴様も即刻ここから立ち去るとよい」
「し、しかしそれでは訓練はどうするおつもりですか?」
「安心しろ、丁度私も任務が終わって手持ち無沙汰だったのだ。この続きは私が引き受けよう」
「そ、そんな身勝手な!」
「何か文句があるのか? 何なら先程の魔法の暴発について、もう少し詳しく調査しても良いのだぞ?」
ああ、やっぱり気がついているか。鬼軍曹もだが、あの魔法を暴発させた魔術士も顔を青くさせてるな。
「し、しかし姫様は、今戻られたばかりで、この者たちの事など何も知らないではありませんか……」
おっと、大分声のトーンは落ちたけど、それでも頑張るな鬼軍曹。
「確かにそうだが――問題ない。今ので少し思いついた事があるしな。それにこの者たちもそろそろ自分の力がどの程度のものか理解したいところであろう」
そこまでいって、だから問題がない、と鬼軍曹に突きつけ、結局鬼軍曹とサドデス、そして魔法を暴発させた魔術士を追い払った。
「さて、皆も驚いていることであろうと思うが、とりあえず改めて私から自己紹介をさせて頂こう。私は帝国騎士軍、第八騎士団にて団長を務めさせて貰っているカテリナ・ドラッケンだ。家名から予測はつくかもしれないが皇帝の娘でもあり、騎士たちからは姫騎士などと呼称されていたりもする」
そういって皇帝譲りの黄金の髪を掻き上げる。その所作が気高く、やたらと凛々しい。
「だが、私は皇女扱いされることは好かぬ。それ故に騎士になる道を選んだのでな。だから、皆もこれからは気兼ねなく接して欲しい」
そしてニコリと慈しみの感じられる笑みをこぼした。これで多くの男子は完全に心を奪われたな。年上で美人なお姉さまだもんな。
「か、カテリナ殿下、はじめまして。この度はお会い出来たことを誠に光栄に思います」
うん? 意外、でもないのかもしれないが、ユウトがふと前に出てきてカテリナの前で跪いたな。
「先程も申し上げたが、私はあまり皇女扱いされることは好かぬ。故に、そのような真似はせずともよいのだぞ?」
「申し訳ありません、私、殿下のようなお美しい姫君にお会い出来たのが初めてな事だったゆえ、どう接してよいか判らず――」
「え!」
「ゆ、ユウトが、嘘、本当?」
「ユウト様嘘でしょ!」
「で、でも、た、確かに、姫様は、う、美しい方です」
これは俺も驚いたな。恋愛に関してはただの鈍感男だと思っていたユウトだが、ここにきてまさか自分からアピールするなんてな。
目も完全に姫に釘付けだし顔も心なしか赤い。
あいつ、年上がタイプだったのか……。
「うん? ユウト? そうか、貴方が異世界から来られたという勇者様でしたか。これは私の方こそとんだご無礼を」
「い、いや! そのような真似はおやめください!」
どうやらカテリナもユウトのクラスのことは耳にしていたようだな。突然頭を下げられ、逆にあいつの方があたふたしてるし。
「それに、私も皆と同じ訓練を受けている身でございます。そこは平等に接して頂けると――」
「ふむ、ならば私も同じだな。私もユウトも含めて皆と平等に接するのだから、君も普通にしていてくれ」
「あ、はは、殿下には負けますね――」
そう言って後頭部を掻いて照れるユウト。うん、俺一体何を見せられているんだ?
「チッ、イチャイチャするのは勝手だけどよ。突然訓練止められてこっちも弱ってるんだよ。姫騎士さんが代わりをやるってんならとっとと何するか決めてくれや」
……おいおいマグマ本気か? 流石にガイやキュウスケもギョッとした顔を見せてるぞ? いくら平等にと言っても失礼でいいってわけじゃないからな。
「な! マグマ君! 何を考えているんだ! 殿下に対してそのような失礼な物言い!」
「あん? 殿下といっても姫じゃなくて騎士やってる程度の牝だろうが。大体平等だなんだいったのはそっちなんだから、それなりに扱わせてもらうぜ。たく、あんな無職の屑のせいで大切な時間無駄にされてむかついているのはこっちだっての。カテリナとかいったか? お前ちょっと土下座しろや。テメェのせいでこっちは強くなり損ねてるんだからよ」
「お、おいマグマ!」
「キキキッ、いくらなんでもそれは失礼が過ぎるだろ!」
キュウスケとガイがマグマを止めようとする。だけどマグマが、キッ! と睨みつけ黙ってしまった。
なんかずっと思っていたんだが、マグマとあの二人の間にはかなりの温度差があるな。
とはいえ、流石に今の発言は他の生徒もシーンっと静まり返ってしまった。そりゃそうだ。
「……マグマ君、流石に今の発言は無礼ではすまされないぞ。今すぐ取り消し、即刻殿下に非礼をわびたまえ! そうでなければ、いくら僕でも見過ごすわけにはいかない」
「ほう、見過ごせないならどうしようっていう――」
「待ってくれ」
だが、そこでカテリナ本人から待てが入る。
そしてマグマに身体を向け、全員が固唾を呑んで見守る中。
「その、土下座というのが何なのか、私には理解が出来ないが、教官と指導官の不始末で訓練を遅らせてしまい、不快な目にあわせてしまったのは確かだ。なのでその点に関しては私から謝罪させて頂こう」
なんと、カテリナの方から頭を下げた。おいおい、本気かよ。
「……チッ、まあ判ったならいいけどな。で、これから何をするんだよ?」
そして、マグマは相変わらずこの物言いだ。恐れを知らないというか、まあただの馬鹿とも言えるが。
「理解してもらえて感謝する。これからのことだが、あのオニスが言っていたように確かに私は皆の今の力を知らない。その上で、皆もこの三日間の訓練で、自分の力が実際どの程度のものなのか知りたいところもあると思う」
そこまで語り、それでだ、と繋ぎ。
「これから皆にも先程みたような模擬戦を行って頂きたいと思う」
は? 模擬戦?
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