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第二十二話 模擬戦終了
「いや、前に出るのはいいのだけど、人数で言えば俺の相手いないですよね?」
とりあえずカテリナに問いかける。実際俺のクラスは、俺を含めて三十九名、絶対に一人は余る計算だ。
「安心しろシノブ。最初に言ったようにお前の相手はこの私がする」
「え! カテリナ卿が!」
何故か、ユウトがやたらと驚いていた。そして、羨ましそうな視線を送ってくる。
それにしてもとぼけてみたけどやっぱ姫騎士様は覚えていたか。
本当、代わってやってもいいんだけどねマジで。
だけど、まあそうもいかないだろうな。そもそもこの姫騎士様は、最初からそれを狙っていたようだしな。
何故そう思うかなんて、ちょっと考えれば判ることだ。この組み合わせを決める為に使われたマジックアイテムはステータスのマジックとオーラからLVなんかを判定してくれるって代物だ。
つまり、クラスが無職でマジックとオーラが0の俺には、全く意味がない代物とも言える。だから、カテリナからしてみれば俺が最後まで残ることなんて想定内の事だったんだろう。
サドデスの行為を止めさせたのもカテリナだった事を考えると、その手前、ここで俺を相手するのは自分が相応しいと考えたとしてもおかしくないと言えばおかしくないのかもだけどな。
「さあ、武器を構えてみたまえ」
結局、俺はカテリナと相対する事になってしまった。断れる雰囲気でもなかったし。
それにしても、よくよく見ると、いや予想はしていたが、騎士然としていながらも、全体的には美しい部類に入る女性だな。
スラリとした手足、そして高潔、凛々しいつり目とかなりの逸材だろう。年上な為か大人っぽい色気も感じるし。
うん、そのせいか判らないが、ギャラリーのブーイングが酷いことになってるぞ。
まあ、ユウトとマイの対決の時に結構な事を言ってしまったし仕方ないか。
とは言え、とりあえず言われるがまま構えを取る。勿論適当だ。
そもそも元々は刀派だしな。一応初心者が大体選ぶ木剣を持ってるけどさ、怪しまれないように。だけど西洋剣術にはそこまで明るくないし、イメージ的にも全くの素人と思われた方がいいだろう。
だから片手で適当に握っただけだ。初心者の癖に両手持ちじゃなくて片手ってのが指摘されそうだけど。まあ、その時はその時だ。
だけど、姫騎士様は俺の構えを見てから、じーっと俺のことを舐めるように見てきた。
なんだ? そんなに問題ある構えだったか? それとも何かこの世界では失礼にあたる事でも知らずにやってしまったか?
「……君は本当に、これまで一度も戦った経験がないのか?」
「はい?」
思わず間の抜けた声を返してしまった。何だ? 何を言っている?
いや、本当かどうかといえば嘘だが、この程度でそれに気がつけるか? 俺は戦う気配を全く見せていない。
殺気の類も皆無の筈だ。それなのに、一体どうしてそんな事を?
それとも、まさか何か感じ取ったのか? 忍者の俺が完全に気配を忍ばせてるのに?
だとしたら、相当に感覚が鋭敏だ。
ただ、今のはあくまで確認で、確信している様子はないのだが――
「……悪かったな。では、いかせてもらうぞ」
「あ、はい――」
そう、俺が応じるとほぼ同時に、カテリナがとんでもない加速を見せた。
恐らくギャラリーの中でもこれを捉えることが出来たのは殆どいないだろ。
一陣の風の如く、カテリナが俺の横を通り過ぎ、慣性の法則を無視しているかのようなターン、背後に回り、カテリナの木剣が俺の首に触れた。
それを認め、一拍敢えておいてから――
「え? ひゃぁああぁああ!」
そんな情けない声を上げながら前のめりに倒れ、地面を転げながらへっぴり腰で慌てふためきカテリナを振り返った。
「び、びっくりしたーーーー! なんですか今の! 突然剣が後ろにありましたよ! ビビった~~――」
胸を押さえながら、心底驚いたような声を上げる。それを見ていた連中の多くが、くすくすと笑い、指をさしつつ小馬鹿にしたりと、まあ中々の馬鹿のされようだ。
「こ、こんなの見せられて流石に勝てるわけ無いですよ。降参、降参します俺の負けです」
なさけねーぞーやら、やっぱ所詮無職の屑かみたいな声が飛び交うが、とりあえず素直に負けを認める。
するとカテリアが一旦眼をパチクリさせるも、罰が悪そうな顔を見せ。
「その、これは済まなかった。私としたことが少々大人気なかったようだな。ふむ、しかし、だとしたら――」
俺に手を差し伸べつつ、カテリナが何かブツブツ言っている。やはり、俺について感づいてる節もあるようだな。
それは本当に、天性の五感の鋭さから来るものだろうけど、なんとも油断ならない姫騎士様だ。
とは言え、今のでごまかすのは成功できたようだ。
これで模擬戦はすべて終了したようだけど。
「さて、これで全組み合わせが終わったわけだが――どうも今の試合に不満なものも多いようだな。ならば、今すぐここに来るが良い。折角の機会だ、皆まとめて私が揉んでやるぞ?」
え? と瞬時にブーイングの声が止んだ。しかしこの人も中々言ってくれるじゃないか。
大体、あの動きは俺が無職だからとか関係なく、見きれるものなんてそうはいない。
この中なら、ケントやユウト、マイなら目で追う事も出来るだろうけど、あれだってこの姫騎士様は全く本気じゃないだろうしな。
そりゃほぼ全員が黙るわけだ。
「ふむ、どうやらいないようだな。つまり彼を馬鹿にしていた者の中には、私の相手になるものはいないというわけだ。それならば無職だからと蔑んだり悪く言うのはやめておくのだな。その程度ではお前たちとて私からすればこのシノブと何も変わらないのだから」
沈黙は続く。ぐうの音も出ないと言ったところか。
まあ、俺のことは正直そこまで取り上げてくれなくて良いのだけど。悪目立ちは避けたいのだし。
「ちょっと待てや! 勝手に決めんな! この俺がいるぞ!」
だが、そんな中、一人名乗りを上げるのが現れた。マグマだ、またこいつかよ……本当懲りないな。
「――悪いが募集期間は終了だ。さて、それではまだ時間はあることだし、全員の戦いを見ながら私が考えたメニューをこれから……」
「ふざけんな逃げてんじゃねぇぞ姫騎士さんよぉおお! 女のくせに騎士とか生意気言ってでしゃばってるような奴、俺の敵じゃねぇんだよ! びびったからって怖気づいてんのか? ああん?」
「逃げる? 怖気づく?」
マグマの相変わらず失礼極まりない発言を耳にしたカテリナだが、特に怒る様子は見せず、やんちゃな悪ガキを諭すような態度で――
「この程度に反応も出来ない貴様にか? 少々勘違いが過ぎるのではないかな?」
前に出てきたマグマの背後をあっさりと取り、俺にやったように首に木剣をあてた。
マグマは、流石に転びはしないが、唖然となって身動き一つ取れないといったところか。
「ち、畜生、こんな牝騎士にまで、この俺が、クソが!」
木剣が喉から離れ、結局それ以上なにも言えなくなったマグマは立ち尽くし、一人悔しさを吐露するぐらいしか出来なくなっていた。
これで今日、その鼻をへし折られたの二度目だしな。
まあ、気持ちもわからないでもないが、自業自得だろう。
そんなわけで見事格の違いを見せつけたカテリナは、改めて全員のメニューを決め、残り時間みっちりとしごいてくれた。
俺も含めてな。ま、サドデスと違って、本当に真面目に、基礎から叩き込んでくれたけど。
まあ、それは俺だけじゃなくて、クラスの多くが似たようなもので、カテリナが指名した騎士や魔術士が、今度は基礎練習も踏まえながらも密の濃い内容で指導してくれたわけだ。
そのおかげで夕食時には皆いつにもましてヘトヘトだった。次の日、筋肉痛がヤバそうだ。俺は問題ないけど。
とは言え、俺に関しては怪我はなくなったけど、疲れたふりはしないといけないのがちょっと面倒だった。
何せカテリナは基本俺をメインに鍛えてくれたからな。この世界の剣術が知れたのは収穫だったけど、色々と鋭い彼女をごまかすのは一苦労だ。
で、訓練も終わり夕食になるわけだが――今夜の夕食はまたあの皇帝が同席することになった。
理由は、カテリナが戻ってきたことと関係してるようだ。ようは皇帝の血を引く彼女を紹介したいというわけだが、まあ、今更だよな。
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