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第三十八話 忍者、情報を聞く
結局、その後はギルドの奥に連れて行かれる事になった。
そこには意外とちゃんとした解体室があり、どうやらバーバラは査定から解体、卸しまで全部自分でやっているらしい。
「傭兵を纏めるなら、全部自分でこなせるぐらいじゃないとやってられないのさ。さ、ここに置いてみな」
俺が解体室に感心していると、バーバラが堂々と言い放ち、そして解体用の台を指差してそこに置けと言ってくる。
う~ん、確かにカウンターに比べたら大分大きな台だけどな。まあ、今回はこっちでも解体しているからなんとかなるかな。
なので、俺はマジックアイテムの袋という事にしてある普通の袋から取り出す振りをして、台の上に素材を並べた。
ちなみにホーンラビットの肉に関しては十羽分はそのまま取って置くことにした。ネメアが良く食うからな……。
「な、なんだい、一体なんなんだいこれは~~~~!」
そして、案の定バーバラが驚きの声を上げた。思わず腰抜かしそうな勢いだったけど、それはマスターとしてなんとかこらえたようだ。
「あ、あんた一体、何羽狩ってきたんだいこれは!」
「とりあえず依頼のあったアルミラージが三十羽、あとついでに狩ったホーンラビットが九十羽分。ただ、事情があって、ホーンラビットの肉だけは七十羽分、こっちで引き取らせてもらっているけど問題ないよな?」
「それは、まあ、肉分の買い取り価格が減るだけだしね。でも、ホーンラビット九十羽を一日でって、それはそれで凄すぎるし、何よりアルミラージ三十羽って、一体何をどうやったらこの短時間でこんなに狩れるんだい?」
「まあ、それは秘密ってことで。傭兵はあまり自分の狩り方をべらべら喋るもんじゃないだろ?」
「……ふん、言うようになったじゃないか」
どうやらバーバラは少しは俺を見直してくれたようだな。解体に関してもフォクロベアーの時とは別人のようだね、と褒められた。
結局素材の質も問題がないという事となり、アルミラージに関しては魔石も含めて八千ルベル×三十で二十四万ルベル。
ホーンラビットに関しては肉も含めて納品出来る分が二十羽分で、八百×二十で一万六千ルベル。残り七十羽分に関しては肉がないので一羽あたり六百ルベルとなり六百×七十で四万二千ルベルとなった。
つまり合計で二十九万八千ルベルなんだが、これだけ大量に仕入れてもらったということで、三十万ルベルで買い取るって話になったな。
うん、わかりやすくていいな。
「さて、これで条件の依頼は達成したな。情報は、教えてくれるのかい?」
「……フフッ、仕方ないねぇ。あたいは強い男は大好きさ。だから教えてやってもいい」
カウンターまで戻り、改めて確認する。
すると、気のせいか若干の熱を持った瞳で俺を見ながら確約はしてくれた。
ただ、なんだ? 妙に雰囲気が変わったような気がしないでもないぞ。
「とりあえず、そうだね。呪いに関しては怪しい薬の材料を売ってる店があるんだけどね、ババアの店ってところさ」
ば、ババアの店? なんか判りやすい名前だな……。
「かなり変わり者の婆さんがやってる店だけどねぇ。ただ、そういったのには帝都で一番詳しそうだと思うねぇ。ただ――妙な話を持ちかけてくる癖があるのがねぇ、だからあんまり変な話しされるようなら、別のあてを探したほうかもだけど、行くだけ行ってみるといいさ」
妙な癖? 何だそりゃ? 良くわからないけどとりあえずやっぱりいるのは婆さんなんだな。
「それで、その、ババアの店はどこにあるんだ?」
「このスラムさ。場所は――」
そしてバーバラはババアの店の場所を教えてくれた。かなり奥まったところにあって一見すると凄く判りにくいとか。
看板もないらしいが、妙な匂いだけは外まで漂ってくるらしい。それを頼りにいくしかないってことか。
「ありがとう助かるよ」
「いいってことさ。そういう約束だったしねぇ。あとは、戦争とかその辺に関しては、そうだね。まだ帝都にはいるのかい?」
「そうだな、まだ滞在することになるとは思う」
「それなら、明日の夜にでもこのギルドの前までこれるかい?」
「夜? でもこのギルドはそんな遅くまでやってるのかい?」
「馬鹿だね。そういう話はギルドではしないんだよ。だから夜なのさ」
ああ、そういう事か。ただ、夜は本来は城に戻ってるんだが……まあ、明日も暫くは影分身に任せておくか。
「判った夜だな。何時頃だ?」
「そうだね、ここはいつも夕方の六時には閉めるから、その一時間後の七時でどうだい?」
「判った、明日の七時だな。まあ、狩りは続けるかもしれないから、その前に素材を買い取って貰いに来るかもしれないけどな」
「それならそれで構わないさ。むしろ次はどんなものを狩ってくるのか、ワクワクするねぇ」
期待に満ちた目で見られてしまった。
まあ、そんなわけで約束を済ませ、俺はギルドを辞去した。
「ふん、ふ~ん」
「うん? なんだ? 上機嫌だな?」
「当然なのじゃ! 夜はアルミラージの肉を食べさせてくれるのじゃろ? 楽しみなのじゃ!」
「え? いや、アルミラージの肉はないぞ。さっき、全部ギルドに買い取ってもらったからな」
途端にネメアが道の端っこでいじけだした。ズーン、という音が聞こえそうなぐらいに落ち込んでいる。
「アルミラージの肉、食べたかったのじゃ……」
「いやいや! ホーンラビットがあるだろ! そのために残しておいたのだし、兎なら一緒だろ?」
「全然違うのじゃ~~肉はLVが高いほうが旨いのは当たり前の事なのじゃ~我はガッカリなのじゃ~~!」
すげー喚かれた。LVの高い肉のほうが旨いって本当かよ? こっちの常識なんてよく知らないし。
「あ~もう仕方ない! どっちにしろ今日は宿を取ることになるしな。その時に美味そうな店に連れて行ってやるよ。別に俺の料理じゃなくても美味そうならいいんだろ?」
「ほ、本当か! 本当なのか!」
「ああ、結構儲かったしな。多少食ったところで大丈夫だろう。ただし用事を済ませてからだ」
そして俺はネメアを連れてバーバラに教わった店に向かった。ちなみに流石にもう因縁つけたり絡んでくる奴はいなくなってた。結構派手に返り討ちにしてきたからな。
「むぅ、この店が臭いのじゃ、とにかく臭いのじゃ!」
「うん、ご苦労さん」
バーバラの情報を頼りに店を探したが、かなり入り組んだ路地の奥にその店はあった。
聞いていた通り看板も何もないので、折角だからネメアに役立ってもらった。
獣の嗅覚はこういう時に使ってもらわないとな。
それにしても、この店もまたやたらとボロっちいな。掘っ立て小屋みたいだ。
まあいいか、とりあえず。
「おじゃましま~っすと――」
声を掛けながら店に入る。ギギギギッ、とやたらとうるさい木製の扉を閉めて足を踏み入れていく。
中はかなり薄暗いな。そしてはっきりと判る独特な匂い。ネメアは苦手みたいで臭い臭いいいながら鼻を摘み、俺の裾も摘んでる。
とりあえず俺はぐるりと中を確認するが、棚の上に所狭しと並べられているのは、なるほど、見るからに怪しい代物だらけだ。
瓶詰めの目玉に、干からびた何かの腕、紐で縛った触手に、大きなムカデが一匹丸々入ったドロッとしてそうな液体、蝙蝠の飛膜のようなもの、何かの鱗、熊のヌイグルミ、ヌイグルミだけ浮いてるなおい!
そんな何に使うのかもよく判らない素材っぽいものが陳列されている。
ただ、確かにこれはソレっぽい。呪いの解き方の百や二百教えてくれそうな雰囲気だ。
「ヒョッホッホッホ、何か御用かのう?」
「うぉっと!」
そんな棚を見ながら歩いていたら、足元から声がして視線を落とす。そこにはやたら片目だけが大きい婆さんが立っていた。白髪頭で頭の上には三角帽子、全体的に紫で統一されたローブ姿で、杖を握った手はミイラのように細い。
そんないかにもといった婆さんの登場に、俺も思わず声を上げてしまった。
「ひょほほ、しかし健康そうでタフそうな男に幼女とは変わった組み合わせじゃのう」
そんなことをいいながら、この婆さん俺の下半身を凝視してくる。なんなんだこの婆さん!
「あ、ああ、実はバーバラから話を聞いてな。傭兵ギルドのバーバラ、知っているか?」
「ひょほほほっ、あの男旱続きのバーバラかい、よう知っとるのじゃ」
どういう覚え方だよ……しかし同じのじゃでもやっぱネメアとは大違いだな――
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