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第五話 馬鹿にされる無職
閲覧可能にしたけど、それにしても改めて見ると笑えるぐらい低いな無職のステータス。
特に固有スキル、スキル、称号が表示されてないってのがなんとも言えない。
まあ、持ってないからなんだろうけど。農民でも付いてるスキルと称号がないからな。
「ぷっ、くっ、ぎゃはっははっはははははは! なんだこりゃ! おいおい見たかよ! すげーなおい、良かったじゃねぇかシノブ、お前、オール5だぞ? ぷっ、あははははは!」
「キキキキッ! いやいや残念ながら0が2つあるぜ!」
「おう本当だな、マジックとオーラが0だ。残念だったな~もうちょいでオール5だったのによ!」
チッ、なんとなくそんな気はしてたけどな。てか何だそれ通知表かよ。それにしても予想してたが、やっぱ嘲笑の対象になったか。
しかも今回は特に馬鹿にしてるのは例の三人だが、他の生徒もクスクスと笑ったり指差して小馬鹿にしてたり、ヒソヒソ耳打ちしてたりといった行動が目立つな。
「ふぅ、まさかここまで低いとは、ですが、がっかりなさらないでくださいね(本当に使えないゴミねこの屑は)」
にっこりと微笑んでるけど、唇はしっかり動いているからな? 本当性悪だなこいつ。
「……お前ら、何がそんなにおかしいんだ?」
「ケント……」
三人がひたすら俺を嘲り馬鹿にし続けている中、ヌッとケントが姿を見せて、奴らを睨めつけた。
「はぁ? んなもん決まってんだろが! こいつがこんなカスみたいなステータスしてるからだよ! この無職野郎がな!」
「……だからどうした? ステータスが低いぐらいで、クラスが無職だというだけで、シノブの価値が決まるのか?」
「テメェ、さっきから随分とこいつの肩を持つけどな。テメェは一体そのシノブのなんなんだおい?」
「……俺はこいつの、ダチだ」
ケント――
「ダチ? お前が? ああ、そうかなるほど。そういうことか、確かにこいつは見ようによってはそっちもいけそうな顔してるしなぁ。それでどっちが受けで、どっちが責めなんだよ? 見た目からして、ゴリラみたいなテメェの方――は?」
「謝れよ――」
反射的に身体が動いていた。正直、ケントには気にするなといって止めようと思っていた。別に無職でも問題ないと思ったからな。
むしろそのほうが都合がいいかもしれないと感じてたしな。
だが、俺をダチと言ってくれたケントを侮辱したこいつがどうにも許せなくなった。
だから、つい、自然と俺の手がマグマの胸ぐらを掴んでた。やべぇな、わりと距離が離れてたのを素で詰めたから、見ようによっては不自然かもしれないがな。
だが、やっぱ許せねぇしな。
「てめぇ、この手、どういうつもりだ?」
「……俺はいくら言われようが構わねぇよ。実際無職だし、ステータスも低いしな。だが、ケントに言った事は取り消して、謝れや」
「は? 何お前調子こいちゃってんの? お前なんざ俺が本気になれば――」
「も、もう止めてよぉおおぉお!」
だが、そんな中、悲痛な叫びが俺の耳に届いた。女子の声だ。俺が声の方に顔を向けると、目に涙を溜めたチユが立っていた。
「みんな同じクラスメートなのに! こんなのおかしいよ! マグマくんも! シノブくんが無職とかステータスが低いとか、そんな事で馬鹿にするなんて、おかしいし!」
「――は? え? 何それ? 何チユ、お前こんなやつ庇って……」
「全く君たちはさっきから何をやっているんだ!」
チユは、どうやら俺のことを庇おうともしてくれたようだ。
だが、そんなチユの行動がマグマには納得できない様子。
う~ん、それにしても何気にこいつ呼び捨てにしてたけど、そんなに仲良かったか?
どちらにせよ、このタイミングでユウトまで割り込んできた。マグマは、チッ、と舌打ちして俺の腕を振りほどく。
俺も仕方なくそこは成り行きに任せた。
「くそ、また勇者様のご登場かよ」
「そんな言い方はよせ、同じクラスメートだろ? そういう意味では、ケント君の言っていることだって尤もだ! クラスメートを職業とかステータスで判断して侮蔑するなんて許される事じゃないよ!」
「だが、それも一つの真実であろう」
マグマに言い聞かせるように告げるユウト。だが、そんな彼に向けて俺達の様子を見に来ていた皇帝が声を発した。
「……陛下――それは一体、どういった意味でしょうか?」
「そのままの意味だ。勇者というクラスを手に入れたとは言え、ユウトはまだこの世界の事は何も知らないであろう。だからこそ、そのような事を言えるのだ。しかし、実際のところ、この世界におけるクラスとステータスの重要度は高い。無職となったものが蔑まされ、底辺として生きていくなど、この世界では当たり前の日常だ」
「し、しかし――」
「勿論お前たちば別の世界からきた者たちだ。我々とは異なった考えもあるだろう。それを否定したりはしない。だが、今ここにある現実として、ユウト、お前は勇者でありステータスも高く、スキルや称号も優れたものを有している。一方でそこの男は無職であり、ステータスは最弱、スキルも称号も持ち合わせていない。それが事実だ、お前は勇者として間違いなく持て囃され、尊敬される。だが、そこの者は無職として期待外れの烙印を押される、その事に変わりはない」
皇帝の言葉に、ユウトは顔を伏せ、拳をギリリと握りしめた。
いや、きっかけが俺だと考えると、なんとも申し訳ない気持ちでもあるんだけどな。
「とは言え、我々もあまりこのような茶番に付き合ってもいられない。そろそろ、答えを聞かせてもらおうか」
「え? 答え?」
「忘れたのか? この世界で自分たちに戦う力が本当にあるのかどうか、それが判るまで余の願いを聞き届けるかどうかは保留にしていた筈だ。そして、全員分のステータスは確認した。クラスも判明した。正直、一部を除けば、ここにいるものはかなり優秀だと、余は思うのだがな」
そして、さぁ、と皇帝は目で答えを示せとユウトに訴えた。
それに、口ごもるユウトだったが――
「別にいいじゃねぇか、受ければ」
その選択に、端を発したのはマグマの声であった。
「受ければ、て! 君は判っているのか? これはゲームじゃないんだぞ!」
「うっせぇな、それぐらいはわ~ってるよ。だけどな、結局俺たちすぐには戻れないんだろ? なあ? そうだよな陛下様?」
「……そうだな、勿論出来る限りのことはするが、そう簡単な事ではないだろう」
マグマが皇帝に問うと、皇帝は表情を崩さず、威厳ある口ぶりで答えた。
尤も言っていることをそのまま鵜呑みになんて出来ないがな。
「そういうことだ。だったら、こうやって折角戦う力が身についたってのに、無駄に時間を浪費している場合じゃねぇよな? それにだ! お前らもこの力試してみたいだろ? スキルとか魔法とか、憧れんだろ!」
すると、今度はマグマが全員に訴えるようにいいだした。それに倣うように、他のふたりもそうだそうだ! と同調する。
「よく考えてみろよ? 今ここでこの国を救ったら俺達は文字通りの英雄だ! こんな経験、そうそう出来るものじゃねぇぜ! 迫るモンスターをなぎ倒し! 迷宮を攻略する! 勇者様はゲームじゃないといったが、だが、この世界にはロマンがある! 俺達のまだ見たことのないような冒険が待ってるんだ!」
マグマの演説に、琴線でも触れたのか、俺も、私も、と同調する声が増えていく。
「そうだ! こんな経験めったにあるものじゃない!」
「ユウトやろうぜ! お前だって勇者と呼ばれて悪い気はしないだろ?」
「そうよ、こっちには勇者がついてるんだから、そうそう危険な目には合わないわよね」
「私魔法が使ってみたい!」
「ふっ、遂に俺の左腕の封印を解く日がやってきたのだな――」
ユウトの周りに人が集まり、やろう! やろう! と煽りだした。ユウトはかなり戸惑っている様子であり。
「な、なにこれ? 皆どうしちゃったの? 何か怖いよ……それに、やるって、それって戦うって事だよね?」
戸惑いの表情を見せるチユ。彼女は元々戦うとかそういう事は苦手なんだろな。
なんで俺の腕を掴んでるのかはわからないけど。
「……マグマの奴、数を味方につけたか」
「いや、それはちょっと違うな。ほら、よく見ると、どうみても同意していないような生徒の方が多いだろ? マグマに同意して煽っているのはあの三人を入れても十五人程度だ。うちのクラスは三十九人だから、二十四人はマグマの言っている事に同意はしていない」
「え? それならなんで……」
「――声がでかいからさ。この状況下で、あの三人の声が一際大きくなった。その結果、あの三人の性格はどうあれ、似たような考えを持った生徒達が勢いにのっかり集まった。こういう時に厄介なのは、声の大きなやつに乗っかるやつもまた声が大きいということだ」
集団心理は一見すると人数が多いほうが有利に働くと思われがちだが、実際は少々異なる。勿論全員が同じ性質であれば人数が多い方に傾くことも多いが、今回のマグマ達のようにたとえそれが正しかろうが間違っていようが声の大きな奴が紛れ込んだ場合は話が別になる。
なぜなら声の大きな奴らというのは得てして目立ちやすいからだ。しかも今回は完全にマグマ達が主導権を握ってしまっている。
こうなるともう多少数で否定派が勝っていても関係がない。何を言おうと声の大きな奴らに圧殺されるだけだ。
尤もユウトはそれでも頑張っていて、あまり意見を言おうとしない生徒に、君たちはどうなんだ? とか聞いているが、無駄な事だろう。
なぜなら彼らは既に及び腰になっているからだ。一度こうなるともうどうしようもない。
それに、どちらにしたって、ユウトの選択肢なんてない。この状況において、皇帝の願いを聞かないなんてことが可能な筈がないからだ。
何せ、状況はこちら側が圧倒的に不利なのだからな。
だから、俺はいい加減片をつけようと思い、ケントに一つお願いする。
「……別に構わんが、シノブが直接言えばいいんじゃないのか?」
「いや、無職の俺は多分あの輪の中に入れてもらえないだろう。だけどケントなら、ユウトに次ぐ優良株だからな」
「……あまり実感わかないんだけどな――」
そういいつつも、ケントがユウトに声を掛けにいってくれる。
「し、シノブ君! な、何をお願いしたの?」
「え? あ、うん、ヒジリさんにはちょっと申し訳ないかもだけど、今はとりあえず皇帝の願いを聞き届けておいたほうがいいってね。今あまり皇帝の機嫌を損ねるような真似をしても、いい結果には繋がらないからさ」
「そう、なんだ。でも、おかしいよね、勝手に召喚とかいうのをしてきたのは向こうなのに……」
少し悔しそうに吐露する。確かにそう言われればそうなんだけどな。
「今はまだ仕方ないさ。俺たちには知らないことが多すぎる」
「う、うん、そうだよね。それに知らないことと言えば、カンザキ君って、思ったより怖くなくてびっくりかも、て! あ、ごめんね友達なのに!」
「うん? ああ、ケントは顔が怖いからな。本人もそれは認めてるし。でも、実際はいいやつだよ。あれであいつ、猫好きだし」
「え! 本当? それ聞いたら少し親近感わいたかも――」
うん、やっぱ猫好きというワードは効くな。でも、言っている事に嘘はない。頬に古傷があってそれも迫力を増す要因になってるけど、実際はあれは弟を助けようとした時に出来た傷だし、暴走族やガラの悪い連中というつるんでいるという噂も、なんてことはない、あいつがよくバイトしてる工事現場の職人だったりだ。
それに、俺はあいつがおばあちゃんを背負って横断歩道を渡ったり、迷子の子供の親を一緒に探してあげたりしてるところをみている。
猫の話に関しては俺とケントが話すようになったキッカケみたいなところがあって、怪我を負った猫を拾って困っていたあいつに声を掛けて、猫を預かったのが始まりだ。
その猫はうちの爺ちゃんの秘薬とやらで元気になり、結局うちで飼うことになったんだけどな。
うん、つまりそれが今は毎日妹にモフられたりしてるミーなんだけどな。
て、そんな事を思い出していたら、どうやら向こうは話がついたようだな――
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