プロローグ

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プロローグ

「よくぞ参られた英雄よ」  一体どうしてこうなった? それが俺、霧隠 忍きりがくれ しのぶが先ず最初に思ったことだ。  最近ではこういうのをどうやらテンプレ展開というらしいが、かと言ってそんな常識外れなことが本当に起こるなんてな。  心のなかで嘆息しつつ、ふと、常識外れか、と自虐的な笑みをこぼした。 <KBR> 冷静に考えたら俺が言う台詞じゃないよな。俺はなんとなくこのなんだかよくわからない世界に招かれる前日の事を思い出してみる。 「ふっ、これで日本とアットダンラム公国との中は一気に悪化するはずだ」  狙撃銃を構えた銀髪の男がニヤリと口角を吊り上げていた。今は訪日した公子への歓迎ムード一色といった様相で、特別にパレードが執り行われると相まって路上は一目見ようと押し寄せた見物客で一杯だ。  アットダンラム公国は親日国としてもよく知られており、さらに公子は公子という立場でありながら雑誌の表紙を飾るほどの美男子だ。そのせいか女性のファンも多い。  一目見ようと押し寄せてきてるのもその多くは勿論女性だ。  とはいえ、一つの国の公子である以上、日本にとっても大事な賓客であり、パレードも厳戒態勢な中、執り行われるわけだが――  それでもやはりここは平和な日本だ。本物のプロの暗殺者に狙われてしまうと、どうしても小さな穴を突かれてしまう。  今回暗殺者がターゲットを狙う場所と決めたここはまさにそれ。数多くの警備がいる中の唯一の盲点。  何せこの部屋は、ターゲットを狙うまでに、つまりパレードが行われる街道までにビルふたつを挟んでいる。  そう、普通に考えればこんな場所からの狙撃は無理だ。  当然、シークレットサービスや警備に回る警察官達もそう考える。だが、実際は、この場所から間を邪魔していると思われるビルの部屋内には二部屋、空き部屋がある。  そしてターゲットまでを結ぶ射線上には、ちょうど窓ガラスが重なる形で並ぶのである。  つまり、このビルふたつは一見障害物であり、狙撃を遮蔽する完璧な盾になっているように見えながら、実はターゲットを狙うのに絶好の穴になっているわけだ。  勿論、いくら窓ガラスとは言え、そこに銃弾が当たれば弾道もずれ弾丸の勢いも落ちる。  しかし、この暗殺者はそのあたりも抜け目がない。先端にドリルのような溝が掘られ、更に徹底的に細く長く作成された特注の弾丸は、貫通力を極限まで高めた代物だ。  勿論貫通力を高めるということは、その分殺傷力を犠牲にしているということでもあるが、それとて脳天にぶち込む分には問題がない。脳を貫通されて生きていられる人間なんていないからだ。  しかも、この貫通力を極限まで高めた弾丸は、窓ガラスを破ってもほとんど音を残さない。故に、外から狙撃した事実を知ることは困難である。  つまり、腕に覚えさえあればこれほど好条件な暗殺ポイントはないってわけだ。まあ、尤もそれも暗殺するという計画が誰にもバレていない場合だけどな。 「させねぇよっと」 「は!? ば! 馬鹿な!」 「はい、ご苦労さん」 「な、ジャパニーズ忍者、おそるべ、し……」  俺は狙撃銃を構える暗殺者の後ろに音もなく忍び寄り一言発す。暗殺者は驚愕に満ちた表情を見せるが、首に手刀を振り下ろしてあっさりと意識を刈り取った。いわゆる首トンって奴だな。  なんか最後に言い残していたけど、まあ俺の格好まさに忍者って感じだからな。  正直こんなの逆に目立つ気がするんだけど、爺ちゃんがどうしても譲ってくれないんだよな。忍者といえばこれが決まりなんじゃ! とか言って。  それにしても、首トンか。自分でやっておいて何だけど、これは本来非常に危険な技で、そもそも首にトンっとチョップしたぐらいで気絶するなんてありえない。  ただ、俺、忍者だからね。そう、俺は今を生きる現代の忍者。だから、忍気を上手く手刀に纏わせれば、この程度の芸当は軽いってわけだ。  ちなみに忍気というのは忍者のみが宿す特別な気、というのが俺が小さい頃から教えられてきた理論だ。これを練ることで火遁や水遁といった忍術も使用可能になる。  ふぅ、実際、本当はもっと派手な忍術でも試してみたいって気持ちもあるんだけど、一応政府のなかでもごく一部の上の連中が知ってる程度の組織だからな。  あまり派手なことは出来なかったりする。ある程度の後始末は面倒見てくれるけど、やりすぎて建物全壊させたりしたらしっかり報酬から引かれるし、一般人怪我させたら流石にかばい切れないって事で俺が捕まるし。    だから、地味に仕事を片付けた後は、縄で縛ってと。うん、霧隠流雁字搦め! なんか虚しくなるな。    とにかく、これで問題ないだろうしっと、おれは口笛を吹いて鳥寄せの術を行う。すると、窓から鳩が入ってきた。  寄せ系の術はくくりとして操遁の中に入り、その名にちなんだものを操れるのが特徴だ。他にも蟲寄せの術や、獣寄せなんかもあったりするな。俺、全部使えるけど、普通はどれか一種類でも極められたら凄いらしい。  で、都会でも鳩は珍しくないから、窓ガラスから侵入しても怪しまれない。なので、鳩のあしに犯人の位置を書いた紙を縛ってと―― 「よし! いけ!」  クルックと鳴いて鳩が飛んでいった。後は事情を知っている公安の連中が気づいてくれるだろう。  はあ、なんか疲れたな。終わってみるとあっさりしているように思えるけど、こういうのは実行する前段階の方が疲れる。実際この暗殺者を見つけるまでに使った労力のほうが大きいしな。  でもまあ、これで家は食っていけてるわけだし、文句はいえないよな……帰るか。  で、俺は帰路についたわけだが、その帰り、ボールを追いかけて道路に飛び出した少年を見つけた。  おいおい危ないぞ、と思いきや、案の定、そこに猛スピードで突っ込むトラックの姿。  やれやれまいったね。 「おい、大丈夫か?」 「え? あ、はい……」    とりあえず少年を助けて怪我がないか確認した。うん、問題ないな。    ちなみにトラックに碾かれそうになった少年を助けて身代わりになり、死んで転生なんてそんな安易な真似はしない。そもそも俺忍者だし、こんなトラックに轢かれるドジなんて踏まないしな。 「て、てめぇこの糞ガキ気をつけろ! ガキなんて轢き殺したらこっちが悪くなるんだからな!」  ……は? 確かにボールを追いかけて飛び出した少年に非がないとは言わないけど、ここは制限時速二〇キロの道だぞ。そこを猛スピードで突っ込んでるてめぇはどうなんだって話だろ。 「チッ、全く糞ガキのせいで配達が遅れるぜ。ただでさえ、ネット通販が増えててんてこ舞いだってのによ!」  そんなことを吐き捨てるように言って、トラックは去ろうとした。させねぇよ。俺は忍気を練って作成した手裏剣を投擲する。  パンッ! という音を残してトラックの後ろタイヤが全部パンクした。運転手が飛び出して大慌てだ。全く、少しは反省しろ。  ついでに俺は、庶民の義務として匿名で警察に電話しておいてやった。見通しの悪い狭い道で暴走行為するトラックがいるってな。ブレーキ跡を見れば一発だし、監視カメラが丁度あるしな。  運転免許剥奪されろ!  そんなわけで少年にはこれから気をつけるよう言いつけ、その場を去った。  ちなみに当然だが、助けた時は早着替えで普通の格好に姿を変えてる。それに少年が見てる間は普通に歩いた。ちょっと疲れたな。  まあとにかく、今度こそ帰るか。 「おう、シノブ帰ったか、どうだ成果は?」  家につくなり親父が聞いてきた。凄い軽い調子でな。 「いつもどおり、暗殺者はちゃんと気絶させて、縛っておいたよ」 「おお、やはりそうか。既にテレビでもそのニュースは流れてるからな。流石シノブ! うちの稼ぎ頭だ! おかげで五千万振り込まれる! しかも国の仕事だから税金は免除だ! がっはっは!」  ニュースでやってるのかよ……いや、てか息子の前で生々しい話すんなよ。大体五千万って、そんなに貰ってるなら小遣いあげてくれよ! 俺未だに毎月五千円しか貰ってないんですけど! 「ふむ、流石シノブじゃな、霧隠家において久しぶりの期待の星、わしの見立てではあの才蔵さえも凌ぐ可能性がある、精進せいよ。ところで五千万も入るならわしも新しい刀購入してもええかのう? ネットオークションでいいのを見つけたんじゃ~」  爺ちゃん、腕を組んで、うんうんって頷いて、意味深なことを言ったかと思えば、結局金かよ! 「うふふっ、今夜はすき焼きね~」  奥では母ちゃんが鼻歌交じりにそんな事を言っている。うん、まあすき焼きは好きだけどな。 「あ、兄ちゃんおかえり~どうだったの?」 「ああ、当然成功だ。兄ちゃんは凄いからな」  居間には妹がいて、白猫のミーをモフりながら俺に気づいて声かけてきた。兄ちゃん一生懸命威厳を見せようと頑張ったよ! 「依頼達成だって~お金だよ~家に大金が一杯入ってくるんだよ~」 「ミ~」  ……あれ? おかしいな? ちょっと前の妹なら、すご~いとか喜んでくれたのに。これが年をとるということなのか……妹も来年中学生だしな。時の流れは残酷だ! でも可愛いから許す! 「兄ちゃんが仕事したなら、私もお洋服かってもらえるかな~新しいの一杯~」 「ふっ、甘いぞ妹よ。この俺でさえ未だ小遣いが――」 「あ! お父さん! 今日も素敵だね、決まってるね!」 「お? そ、そうか?」 「うん、私お父さんだ~い好き。それでね、欲しいお洋服あるんだけど~」 「……母さんには内緒だぞ」    やった! とほくほく顔で妹が戻ってきた。諭吉が三枚だ。三枚も握られている! 「親父! 俺もいい加減小遣い増やして――」 「いいかシノブ、忍者というのは耐え忍ぶ者と書いて、忍者と読むんだ」  肩をぽんっと叩かれてそんな事を言いのこし親父は去っていった。なんだこの差は! 「うぅ、大体妹だっていずれはくのいちじゃないか……」 「嫌だ! 私絶対やらないからね! あんな格好絶対嫌だから!」  妹は断固拒否って感じだ。俺みてみたいけどなぁ、妹のくのいち姿。 『――それでは次のニュースをお伝えいたします。蘭丸高等学校失踪事件について、事件発生から今年で四年目を迎えました。この事件は通称神隠し事件ともされ、警察当局が今も必死にその行方を追って捜査を続けておりますが、以前手がかりは掴めていない状況で――』  ふと、テレビのワイドショーでそれが流れているのが目についた。これは、実は一時期霧隠家も捜査に協力していたことがあるんだが、俺たち忍の力を持ってしてもなんの手がかりも掴めず、今でもうちから派遣された忍が何人か動いている案件だな。  通称神隠し事件ともされてるけど、ネットではクラス召喚されたんだ! そうに決まってる! と一時期騒がれた事件でもある。  そう、何せこの事件、とある高校の一クラス分の生徒がある日突然に、忽然と姿を消したのだ。  だから、ネットで騒がれるのもわからないでもない。尤もうちの見解は全くことなり、他の忍一族の手によるものでないかという過程で調査を進めているようだけどな。それを裏付ける理由もあるしな。  でもまあ確かに、普通に考えれば異世界にクラスまるごと召喚されるって話よりは、忍者が関わってると考えたほうが……いや、それも十分おかしいな。どうも俺は最近この環境に毒されてきてる気がする。  まあ、何はともあれ、正直小遣いについては全く納得してないが、とにかくその日はすき焼きをたらふく食って過ごした。  ちなみに日曜日だから学校はない。で、次の日、月曜日に登校し、教室に顔を見せたわけだが。  俺は相変わらずと言うか、クラスからはちょっと浮いている感じだ。そもそもわりと気配薄めてるとこあるしな。  後は、あれだな、仕事の関係上、どうしても遅刻したり欠席したりすることがまあまああるのも要因か。まあ出席日数は足りるよう調整はしてるがな。  それにしても、平和だな。忍の仕事なんて普段からやってると特にこういった日常がそう思える。    まあ、一部俺とは別な意味で浮いてるのとかもいるけどな。例えば窓際の今時めずらしいヤンキー風の三人とか。  後は、神崎 拳斗かんざき けんともそうか。背も高くてガタイがよく厳つい。色々悪い噂も立っていて浮いてしまっている。    全く、思い込み・・・・というは怖いものだな。 「あ、あの、霧隠君――」  そんなことを考えていると、ふと横から声が掛かった。  誰かと思えば、聖 知癒ひじり ちゆだな。生まれつき毛の色が真っ白という体質な子で、やはりそこが目立ってしまうな。  あまり目を向けないようにしたつもりだけど、彼女はちょっと照れくさそうに胸まで伸びた髪を弄んだ。  若干瞼を落とし、どこか戸惑いの感情が窺える。前髪がぱっつんなため、目立ってるおでこにも若干汗が滲んでるようでもある。  彼女は小柄で全体的には可愛らしい、どこか守ってあげたくなるような美少女だが、今の様子を見てるとどことなく挙動不審な感じが強く出てしまっているな。  しかも俺に話しかけてきてこれだからな。一体なんなのだろうか? まさか忍者なのがバレた? な、はずないな。少なくとも任務中に俺は彼女を見たことがない。 「あ、あのね! き、昨日シノブ君、こ、子供助けてくれてたよね! 実はあの時、私、ち、近くにいて」  子供? 俺はふと昨日のことを思い出すが――あ、あの子か。 「あ~確かに、なんというか成り行きというか、そんな感じだったんだけどな」 「で、でも凄いよ! 中々出来ることじゃにゃいよ!」  お、おぅ、なんか凄い食いついてきたな。最後ちょっと噛んでるんだよな、多分? 「ま、まあでも子供が無事で良かったよ」  とは言え、この話、あまり突っ込まれてもちょっと困るし、もう切り上げさせてもらうか。もうすぐチャイムもなるだろうし、それを理由にって―― 「きゃっ、きゃぁああああああぁあ!」 「なんだなんだ? 地震か!?」  チユが叫びあげ、他の生徒もにわかに焦りだす。何せ教室がかなりの勢いで揺れてるんだ。何人かは机の下に避難しているけど。  でも、妙だ――なぜなら教室は確かに揺れてるけど、窓は揺れてないからだ。おまけに鳥は普通に飛んでいるし、地脈の乱れも感じられない。    俺も一応忍者だし、それぐらいは教室からでも判るからな。そして、それで判ったことは、この現象は教室の中だけが揺れているという事。  そして―― 「おいおい、魔法陣ってマジかよ……」  そう、続いて現れたのは魔法陣。教室全体に及ぶような巨大な魔法陣が突如浮かび上がり、そして、俺達の視界は真っ白に覆われたんだ――
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