第十六話 カテリナの実力

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第十六話 カテリナの実力

 姫騎士カテリナの登場で、なんとなく姫騎士と鬼軍曹とサドデスのやり取りを見ていたら、馬鹿にされたサドデスが怒り心頭といった様子で姫騎士に試合を申し込んだ。  それをカテリナも受け入れた形だが―― 「……判りました。双方とも納得の上なら、それに殿下のご意思に背くような真似、一介の騎士に出来るはずもないですからね」  なんとも嫌味なやつだな。カテリナは気にしてないようだけど、さっきまで文句たらたらだったろうに。 「それに、ここにいる皆のいい刺激にもなるでしょう。サドデスも折角だ、一つ稽古をつけてもらうといい。よく揉んでもらう事だな」 「勿論判っておりますよ軍曹」  このやり取り、一見すると姫騎士にしごいて貰え、のように言っているように聞こえるが、表情といい、サドデスの不敵な反応といい、言外には別な意味が込められているな。  生意気な姫騎士に目にもの見せてやれとか、思い知らせてやるがいいとか、そんなところか。  尤も、表情の変化は少ないし、一見すると殊勝な態度に見えるから気づいているのも他にはいないかな。 「どうぞ、宜しくお願いたします」 「ああ、宜しくな。何も遠慮することはないぞ、始まったら全力で来るといい」 「判りました、ですが流石にこれは変えさせていただきますね」 「そうだな、訓練の試合で万が一怪我でもあったら大変だ。本当に万が一怪我でもあったら事だからな。おい、誰かサドデスの得物を木製のものに、姫様にも木製の剣を用意して差し上げろ」  一旦頭を下げた後、あいつも、流石に青銅製の棒は交換しようと考えたようだな。そしてそれに追随する形で鬼軍曹が他の騎士に命じているわけだが――しかし白々しいな。 「構わないぞ――」 「は? 構わないと申されますと?」 「そのままの意味だ。お前はその得物をそのまま使用してくれて問題ない。そして私に木製の剣は不要だ」  カテリナがそこまでいうと、鬼軍曹とサドデスが目を丸くさせ答える。 「それは、殿下は今お手持ちの剣を使うという事でしょうか?」 「違う、そんな大人げない真似はしないさ。私はこのままでいい」  余裕のある表情で語り、そして姫騎士は後ろ足を引き、右手を前に出し次の句を続けた。 「つまり無手で構わないという事だ。まあ、お前程度であればそれで十分であるしな」  いや~この姫様、結構煽るね~。おかげでスキンヘッドの頭か額かわからない部分に血管浮かび上がりまくりだよ。 「……姫様、本当に宜しいので?」 「私は一度口に出した事をすぐに翻す程、愚かではないのでな」 「なるほど、よほど自信がお有りという事なのですね。流石戦女神とも誉れ高いカテリナ殿下でございますな」  そういいつつも鬼軍曹の笑顔が硬い。ただ、これは逆にチャンスと思っているところもありそうだな。 「ですが、万が一にも、そのような事は姫様に限ってありえないとは思いますが、もしもこの模擬戦で怪我をしてしまった場合でも、どうかそれについて問題にするのはご勘弁を」 「そんな事は当然だ。腕の一本折れようが、全身の骨が砕けようが、文句など一切言わないとここに誓おう。騎士の紋章にかけてな。尤も、それが出来ればの話だが」  おお……なんとも勇ましい姫様だな。そしてそれがそのまま挑発にもつながっている。  これは――本当にただの口だけなら、姫様とはいえ只ではすまないだろうが。 「それではこれよりサドデスとカテリナ殿下の模擬戦を開始する――」  いつの間にかギャラリーと化したクラスメート達が、対戦する姫騎士カテリナとサドデスを囲むようにして群がっていた。  勿論他の騎士や魔術士が前に立ち、これ以上は邪魔になるから近づくなと塞いではいる。俺はある意味この試合に至る要因だからな、一番前で見学することができそうだけどな。 「……また、妙な事になったな」 「シノブくん! け、怪我大丈夫? 治療するね!」 「え? あ、いやこの程度は――」  そしてそんな中、ケントとチユがやってきてチユに関しては魔法で俺の治療をやり始める。止めようとしても難しそうだから、今回も自傷して傷を治してもらった。 「始め!」    そして周囲が妙な盛り上がりを見せる中、鬼軍曹の合図が掛かり、サドデスが暴れ牛のごとく勢いでカテリナに突っ込んでいく。  本当に脳筋だけに、作戦もクソもない力任せの戦法だな。  ただ、いくら関節の可動域が狭いとはいえ、武器を持たない姫騎士と比べたらリーチの差ははっきりしている。  サドデスが間合いにカテリナを捉えると同時に、青銅製の長棒を思いっきり振った。腰も上手く回っておらず、本当に横から力任せに殴っているといったところか。  けど、まあ判っちゃいたけど、姫騎士はあっさりそれを跳躍して避け、それどころかそのまま着地して棒の先端を踏み抜いた。 「な!?」  サドデスが驚愕する。カテリナは片足を棒に乗せて体重を掛けているだけだ。  そして、どうした? と冷ややかな目で問いかける。 「くそっ! こんなもの! 俺の筋肉でぇええぇえええぇえええ!」  ぐぬぬぬッと顔中に血管を浮かび上がらせて、棒を振り上げようとするが全く動かない。  ま、当然だな。あれじゃあもう筋力だけでどうにかなるってもんじゃない。判っちゃいたが、力の差は歴然だな。  とは言え、判っていたと言っても別に俺があの姫様を忍術で看破したわけじゃない。俺だって別にだれでもかれでも節操なく術をかけているわけじゃないからな。  サドデスみたいな奴には問答無用でやるけど、カテリナは一応俺を庇ってくれたわけだしな。勿論だからって手放しで信用できると思ってはいないけど、今のところは無断でステータスを覗き見てもいいと言えるような相手ではないのは確かに。  それに、なんとなくだが彼女の場合そういった事に敏感な気がするし。  そう、俺がカテリナの方が圧倒的に強いと感じたのは滲み出るオーラからだ。  この世界にはオーラという力が存在するが、それがかなりの輝きを放っている。これに関しては俺が忍者として生きてきた経験から察することが出来ることだけどな。だから自然と判る。オーラを使用する時に出るものと異なり、自然と滲み出るものだ。  向こう流に言えば覇気が違うとでも言うべきか。ちなみにサドデスからは全く感じられない。 「全く仕方のないやつだ、ほら」  するとカテリナが脚をどかし、途端に力を込めていたサドデスの長棒が振り上げられる。     だが、それが丁度水平に保たれる位置で、再び手を添え棒の端を掴んだ。  再びピクリとも得物が動かなくなる。サドデスは顔を真っ赤にさせて振りほどこうとするが無駄なことだ。 「判ったか? お前が駄目なのは戦闘の基礎も中途半端な段階から、筋肉に頼り切った戦い方に切り替えていったことだ。だから、こんな無様なことになるのだ」  周囲からどよめきが起きる。なぜならカテリナが棒を握った腕一本で――サドデスを持ち上げてみせたからだ。  その光景に当の持ち主であるサドデスが一番驚いていた。 「そんな、馬鹿な、こ、こんな事が――」 「……別に大したことではない。むしろ長柄武器を使用していながらこの状態に持っていかれるなど恥ずべきことだぞ?」  片腕で長棒ごとサドデスを持ち上げ、垂直状態で固定したまま、諭すようにカテリナが言った。  そして、これはまさにその通りだ。なぜなら少なくとも持ち上げるまでは、あの姫様はテコの原理を応用したに過ぎないからだ。  そしてサドデスが愚かなのは、少しでもリーチを活かそうと焦り、支点となる腕を自分側に寄せてしまったことにある。  その結果、あの姫様が先端に足を乗せ体重を掛けるだけで、全く動かなくなり、足を外した後も片腕で掴み、力の入れ方を工夫するだけで、全く動かなくなった。  その上、あの男の持ち手の問題がある。支点が柄を握る腕なら、柄頭部分が作用点でサドデスが作用される物体、姫様は力点だ。  当然支点から力点は離れていたほうが少ない力で重いものを動かすことが可能になる。今の状態はまさにそれだろう。  だからこそ、圧倒的に筋肉量が多く、重量もあるサドデスを姫様がこうも簡単に持ち上げる事が出来たのだ。    だが、肝心のサドデスは理解していないだろうけどな。 「落とすぞ」 「え? いや、ちょっ――」  カテリナが宣言する。サドデスが暴れるが、その時、一瞬だが鬼軍曹が何か目配せのような物をするのが見えた。  かと思えば、姫様の背後から火の玉が迫る。みると、皆を指導していた宮廷魔術士の一人が魔法を放ったようであった。  わざとらしく、しまったーー! などと言っている辺り、後から間違って暴発したとでも言うつもりなのだろうな。  だけど、その火の玉はカテリナに命中することなく途中で弾け、ちょっとした衝撃だけを後に残し霧散した。  え? と行使した魔術士と鬼軍曹が驚いている。  姫様も背後を確認しつつ目を丸くさせてるな。  とはいえ、それが俺の仕業だとは誰も気がついていないだろうけどな。  風遁・空指弾の術、今使ったのはこれだ。風遁では基礎の中に入る忍術だが、ようは空気を球状の塊にして指弾のように飛ばすという術だ。  これなら目立った印も結ぶ必要ないし、弾丸はパチンコ玉程度の大きさで、余波もない。着弾までも速いから先ずバレることがないしな。  尤も、それでもこの世界の簡単な魔法なら、あんな感じに相殺するぐらいのパワーは出せる。  それにしてもあいつ、何か企んでるとは思ったけど、まさか背後から狙い撃つなんてな。騎士道精神にあるまじき行為だろそういうの。 「……ふん――」 「ぐぎゃ!」  結局カテリナは、そのままサドデスを地面に叩きつけて、これで勝負は決まった――
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