第十八話 模擬戦開始

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第十八話 模擬戦開始

「はははっ、模擬戦か。少しは判ってるみたいだな、あの牝騎士もよ」 「お、おいおい加減にしておけって」 「キキキッ、不敬で巻き添え処刑とか勘弁だぜ……」  随分と張り切ってるマグマだが、ガイとキュウスケは不安そうだな。  勿論それは模擬戦がではなくて、マグマの態度にだろうけど。 「よし、これで全員分の登録が終わったな」  そして姫騎士のカテリナがよく通る声を上げる。彼女は今、青白い玉を二個持っている。その片方を補助として指定した魔術士にもたせていた。  カテリナは模擬戦の提案をした後、俺達一人一人にあの玉を握るよう言ってきた。玉はふたつあるが同調するのでどちらか片方を握っておけばいいらしい。  そしてクラスの皆、三十九人分が握り終わったら更に説明に入る。 「この玉はマジックアイテムでな。触れることでマジックとオーラを認識し、そこから名前も記録する。  そしてセットするとふたつの玉にそれぞれ記録された名前が浮かび上がる仕組みらしい。ちなみに一度出た名前はその段階で消去されるため、同じ名前の人物が出ることはない。  つまり、この玉にそれぞれ表示された生徒同士で模擬戦してもらおうって話のようだ。   「あの、うちのクラスは三十九名になるのですが、最後に余った人はどうなるのですか?」 「うむ、その場合は私が相手をしよう」    そしてクラスメートの一人が疑問点を尋ねると、カテリナからはそんな回答が。  ふ~ん、なるほどね。 「改めてルールを伝えるが、この模擬戦は双方、得意としている武器を木材で模した物を使用してもらう。魔法やスキルに関しては今使えるものを積極的に使ってくれて構わない。当然だが戦いは一対一で、横から別の者が援護などをするのは禁止だ。勝敗はどちらかが参ったという、得物が折れる、魔法系の場合杖を持ってもらうが、杖が折れても負けだ。後は私の判断でこれ以上は危険とした場合も止めて判定する。ある程度の怪我は回復魔法が使える治療班を控えさせているから安心してくれて構わない」  そこまで話した後、では始めるとしよう、とカテリナと魔術士が水晶のような玉に念を込める。  すると、確かにそれぞれの玉に名前が浮かび上がってきた。  そして表示されたふたりが指定された位置にそれぞれ立つ。  最初の試合は戦士と魔術士の対決だった。  ルールでは魔法系や弓系の場合、開始の距離が変わり、ある程度離れた位置からの開始となる。  これは当然、魔法系と弓系の特性を配慮してのことだ。  ちなみに弓矢の場合は、木製なのは当然として、先鋭はしてなく、少し先端が丸みを帯びているタイプらしい。  刺さらないが、衝撃が相手に伝わるような仕掛けがあるんだとか。  そんなわけで、最初の試合だが――これはあっさりと決着がついた。  魔法系は女子の風術士で、開始と同時に風の魔法であるウィンドカッターを撃ち続けた。これは風の刃を飛ばすという魔法で、風系は弾速が速いのが特徴と風遁に近いものもあるのだが――いかんせん威力が低かった。  一方戦士は、大抵の場合マジックが0な為、魔法耐性が低いのだが、それでもウィンドカッターぐらいであれば十分耐えられたようで、結局攻撃を受けながらも強引に距離を詰めて一撃を浴びせるという手で勝負が決まった。    戦士の男子は力溜めというスキルを持っていたようで、一撃に全てを込めて攻めたのが上手く嵌ったのだろうというのがカテリナの総評だ。 「……模擬戦ってどんなものかと思ったが、鈍った身体を解すには丁度いいかもなぁ」 「えぇ……私ちょっと怖いよ。し、シノブくん大丈夫?」  ちなみに観戦は引き続き近くにいるケントやチユとしている。  ケントは訓練だけじゃ物足りなかったのか。チユは、まあクラス聖女だしな。積極的に戦うタイプではないだろ。 「俺は、まあこれまでもなんとかなっていたし、それにあの殿下がいればそこまで酷いことにはならないと思うしね」 「え!? も、もしかしてシノブくんも、ああいうお姉さんタイプが好きなの?」  いや、どうしてそうなった。俺はあれとは違う。何か今もカテリナみながらポーッとしている勇者くんとは違うぞ。  そして親衛隊女子の目が怖いな。完全にカテリナを敵対視しているだろ。相手殿下だからな! 姫様だぞ!  と、そんな事を思っている間に、弓士のクラスと斥候のクラスを持ったふたりの戦いだな。  弓士は文字通り、弓で攻撃できる遠距離タイプ。斥候は様子を探ったり、そういった事が得意な探索系の基本職だな。  ちなみに先に説明があったように扱う矢は先端が丸みを帯びている形。その代わり衝撃が伝わりやすくなっている。  一方で斥候は木製の短剣型の武器だ。そしてこれは弓士の方に軍配があがった。  斥候も動きが速かったが、本来斥候タイプは隠れ潜みつつ相手の隙を狙うタイプだ。  しかしここは隠れる場所が皆無だからそれが難しい。弓士は矢が刺さらない代わりに衝撃が伝わるわけだが、これが逆に功を奏したな。結局いくら近づこうとしても矢玉によって押し返され近づくことも叶わず、負けを認めた形だからな。  そして、次は三回戦となったわけだが―― 「ふむ、次がきまったな。次の試合は、ケント対マグマだ――」  そこでこの組み合わせだ。まさかケントとマグマとはな。そしてマグマは騎士から木剣を受け取ると―― 「くくっ、あっはっは! 本当はユウトの野郎をぶっ潰してやりたかったんだけどなぁ。ケント、お前かよ。だけど、それもいいか、前は結局不完全燃焼で終わったし、何より俺はテメェも気に食わねぇ!」  先に舞台に立ったマグマがケントに木剣を突きつけるようにしてそう宣言する。 「……行ってくる」  一方ケントはそれだけ言い残してカテリナとマグマの待つ試合場所まで歩いていった。  ケントはクラスが拳闘士だから、武器の代わりに拳に包帯を巻いているな。バンテージにして拳が痛むのを防いでるんだな。  ケントの場合はこのバンテージが破けた場合も負けだ。 「か、カンザキ君大丈夫かな?」 「そうだな、少なくとも一方的にやられるほど、ケントは弱くないよ」  そう、それは間違いがない。ただ、俺の予想が間違っていなければ、恐らくこの模擬戦の組み合わせ、ある程度LVの近い者同士が選ばれるよう調整されている。  先に行っていたオーラやマジックを読み取っているというのがその絡繰りだろう。そうすることでステータスも一緒に読み、あまり実力差が出ないように組み合わされているんだ。  それは、単純なステータスでみれば、マグマはケントとそれほど変わらない力を持っているという事になる。  どちらにしても中々興味深い対戦だな。 「ふたりとも判っていると思うが、これはそれぞれの戦い方と実力を測る為の模擬戦だ。別に殺し合いをしろと言っているわけではないから、そこは勘違いしないようにな」 「ハッ! 相手を殺すぐらいの気持ちでやんねぇと、真の実力なんて測れやしないだろうが!」  恐らくマグマの態度からカテリナは敢えてその事を強調して述べたんだろうけどな。    しかしマグマに変化はない。一方ケントは特に気にする様子も見せず落ち着いたものだ。 「……確かにそれも一理ある。だが、危険だと判ればとめるからな」    敢えて忠告した上で―― 「それでは、始め!」    カテリナが開始の合図をかける。その瞬間。 「ドラァアァアァアァアアアァアアア!」  今までの鬱憤を晴らすかのようにマグマが剣を振り下ろし、床が爆裂、硝煙にも似た煙がかなりの量排出された。 「キャッ!」  生じた余波に、となりのチユも思わず悲鳴を上げる。流石に爆裂だけあって、かなりの高威力だ。訓練場としても使われているこの広場は、床もかなり丈夫な造りのはずなのに、マグマの一撃で完全に陥没してしまっている。  マグマも、どうだ! と言わんばかりに口角を吊り上げるが――だけど、甘い。それじゃあケントには通用しない。マグマの顔色も変わった。  気がついたのだろうな、爆発したその周辺にケントがいないことを。  直撃したかどうかぐらいは、流石に剣の感触で判るだろうが、多少外れても爆発の衝撃で何とかなるのが近接戦における爆裂の強みと考えたのだろう。  だが、それでも完全に後ろに回り込まれたのでは、爆発の範囲から外れる。  そしてケントにはそれが可能な身体能力がある。十分世界も狙えると太鼓判を押されたその実力は伊達ではない。  無駄のないシャープなフットワークで引き続きマグマの横についたケントはそのまま一閃。  するどい蜂の一撃を思わせる左のジャブがマグマの顔を跳ね飛ばした。ケントにとっては何の変哲もないただのジャブ。  しかし見慣れていないマグマにとってはただの凶器でしかないだろう。  しかもそれから―― 「……とりあえず、ユウトの分だ」 「ぐふぉ!」  ケントのレバーブローが炸裂。マグマの身がくの字に折れ曲がる。 「……後はヒジリの分」  更に顔面に左のショートフックが続く。だが、ケントの流れるようなコンビネーションはまだ終わらない。 「……そしてこれは――シノブの分だ!」  そしてそのまま右のアッパーがマグマの顎を捉えた。それにしてもケントの奴、にくいことをやってくれる。チユや俺だけじゃなくユウトの分まで返すとはな。意外とケントもあの性格自体は気に入っているのかもしれない。  アッパーを受け派手に吹き飛ぶマグマ。だが、あいつも中々しぶとい。それでもマグマは何とか反応して空中で体勢を立て直し、着地と同時に地面を蹴り、距離を詰めケントに向けてその剣を振り下ろした。    瞬間爆撃、床が爆ぜ、爆轟で余波が広がる。確かに大した威力だ。マグマが自信過剰になるのもわかる。  だが、相手が悪く、同時に爆裂に頼りすぎだ。そもそもケントはガタイもよく、その分動きが鈍いと思われがちだが、実際は違うことはステータスのスピードの高さからも知ることが出来る。    ケントはパワー、スピード、テクニック、その三つを兼ね添えたボクサーだ。だからこそあいつの通っていたジムの会長が、千年に一人の逸材とまで賛美したんだ。  そしてそれは何も大げさなことではない。あの体格にも関わらず見せる軽やかな足運び(フットワーク)、どれだけのパンチを受けても倒れない頑強さ、一日連続十二時間以上走り続けても息も乱さない強靭な体力。  教えられた技をスポンジのように吸収しすぐに習得し、しかも必ず良い方面にアレンジを加え昇華させるテクニック。    そしてなにより、厚さ三十センチのコンクリートでさえ拳一つで貫くそのパワー。全てがこなせるというのは得てして器用貧乏という状況に陥りやすいが、ケントの場合はそうではなく、ボクシングという点においては全てが最高だ。  一方マグマは、喧嘩ぐらいであればそれなりにこなしていたのかもしれないが――やはりその程度だ。技術の面ではあまりに拙い。  その上で、扱いの難しい爆裂ときたらなおのことか。そもそも爆発系は忍術においても難易度の高い物の一つだ。   それは単純に習得するという点もそうだが、いざ覚えても使うタイミングの難しさというものがある。  こういった系統は、利点としては威力が高いこと、そして爆発によって生じる衝撃波の影響で効果範囲が広いこと。  この二点が上げられる。特に練度が高ければ高いほど威力や効果範囲もどんどん広がっていく。  だが、これらの利点は状況次第であっさりと欠点に成り変わる。爆発の威力の高さは余計なものまで破壊してしまうことに繋がるし、効果範囲の広さは味方まで巻き込んでしまう可能性が高くなる。  その上、爆発によって生じる煙は視界を奪う。これは使いようによっては利点になりえるが、なれないうちは――今のマグマのように、ただの欠点にしかならない。  つまり、攻撃を打った側が、逆に視界を遮られ相手を見失うという状況だ。 「ガッ!?」    爆発の射程からあっさりと逃れ、逆方向に回り込んだケントの拳が飛んだ。ジャブの一発でマグマが仰け反り、だが意地だけは中々のものなようですぐに踏みとどまり、流石に気がついたのか爆裂の発生する振り下ろしから、横に振り抜く攻撃に切り替えた。  だが、それも無駄だ。マグマは振りが大きすぎる。あれではケントには当たらない上、ベタ足なマグマでは、ケントの滑るようなフットワークについていけない。  瞬時に最高速に達するケントは、あっさりマグマの横を取り、そこから今度は左のジャブを纏め、その顔が踊り狂い顎が上がった所に左のショートアッパーを決める。ただでさえ上がっていたマグマの顎が、その一撃で大きく跳ね上がった。  地面から足が離れ、このまま倒れて終わりかと思ったが―― 「オラッ!」  あいつは思いの外しぶとかった。倒れる直前地面に向けて剣で突き、発生した爆風に乗って大きく跳躍しやがった。  あれはゲームでも見られるテクニックのロケットジャンプに近いやり方だな。つまり爆風にのってより高く跳ぶことが出来るという物だ。  マグマの場合どれだけ爆裂を使用しても自身がダメージを受けている様子がないことから、自らが発生させた爆発には装備品も含めて巻き込まれないという特性があるようだけどな。  けれど、衝撃だけをうけたりなどある程度調整が可能なんだろう。  しかも今ので煙が一気に広がった。マグマは上空にいるから、今度はケントが奴を見失った可能性もある。  マグマに関しては空中を漂いながら木剣を構えている。煙は程なくして晴れた。ケントの位置が顕になり、空中漂うマグマがニヤリと口角を吊り上げて、空を漂いながら上に放り投げた小石へ木剣を振り上げる。  多分あの石は何回か見せた爆裂で砕けた床の破片だろう。いつの間にか隠し持っていたわけだが、それに攻撃を当てることで、絶対爆裂が作動し、再び空中で爆轟。  マグマはまるでロケット噴射の如く勢いで地上へと急降下。  狙いは当然、地上に立つケントだ。  だが、ケントも避ける素振りは見せず、拳を構えて迎撃の体勢に。  しかしマグマの落下速度も速い。爆風の影響で降下速度が上がっているからだ。  そしてケントが――右構えから左に体を捻り、屈み、視線はしっかりと落ちてくるマグマを捉えたままにし。 「死にやがれケントーーーー!」  そんなことを、いや死にやがれって、さっきの姫様の話聞いてたかこいつ? まあとにかく、そんなことを叫びながらマグマがケントに向けて剣を叩き込もうとする。  だが、それとほぼ同時にケントの身体が屈み状態から伸び上がり、その反発力を最大限活かした形で拳が放たれる。  ケントの持ち技の一つ、カタパルトパンチ。これはガゼルパンチをベースとしていて、だけどその威力があまりに大きいことと、振り抜いた軌道が放物線を描くような形になっていることからあいつの通うジムの会長が名付けた。  実際ケントの使う技の多くは、ベースがあってそれを会長がアレンジしている事が多いな。    だけど、これはかなり高射な打ち方だな。これだと殆ど対空ミサイルって感じだろう。  それが唸りを上げて――マグマの木剣を捉えた。つまり振り下ろされたマグマの剣にケントが合わせたんだ。  当然、爆裂――爆風が周囲に広がり、一部の生徒たちから悲鳴が上がる。  どうやらあの爆裂は、元の衝撃の度合いでも爆発の威力が変化するようだな。当然、元の攻撃の威力が高ければ高いほど爆発の威力が上がり範囲も広がるって感じだろう。  今の爆発も地上で攻撃して起こしていたのに比べると、倍近い威力に跳ね上がっている。 「こ、この爆発じゃ……」  チユも心配そうにしているな。その気持ちもわからないでもない。だけど―― 「勝負あり! 勝者――ケント!」  続いて発せられたのはケントの勝利を告げる姫騎士の声だった。
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