第二話 よく考えればわかること

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第二話 よく考えればわかること

 全く、こういうのは得意じゃないし面倒事は仕事の時だけで十分だってのにな。  おかげで一瞬にして全員の注目が俺に向けられたよ。本当にやれやれだ。 「何だ貴様! 全く次から次へと陛下を前にして!」 「まあ待て、それで、ふむ――」 「シノブです。以後お見知りおきを」  一応相手を敬っている程度には頭を下げておく。名前は、まあごまかしても仕方ないしな。 「シノブか、判った。それでシノブよ、選択肢がないとはどのような意味で言ったのだ? 聞きようによっては、結局はこのユウトの言うように、我々がお前達を強引に従わせようとしていると、そういう風に捉えているように感じるが?」 「そんな陛下! 私は――」 「いいからユウトは一旦黙っとけって」 「な、あんたユウト様に向けてその口の利き方は何よ!」 「そうよそうよ!」  とりあえずユウトがこれ以上余計な事を言わないように釘を差したつもりだが、余計な連中が増えたな。  あれは確か、真動 魔緒まどう まお音梨 玲奈おとなし れなか。  マオの方は眼鏡を掛けたお硬い感じの女子で、だけどユウトの事になるとむきになるタイプ。脚がスラリと長く、実は眼鏡を外すとかなりいけてると男子が噂してる事もあるな。  そしてレナはショートカットでボーイッシュな女の子。元気いっぱいって感じで陸上部所属だったな。運動神経抜群な女子だ。  で、このふたりはユウト親衛隊を名乗っているメンバーのふたりだな。  まあとにかくそんなふたりだが、ユウトが、 「い、今は陛下の御前だから落ち着いて」 と言った事で一旦口を噤む。  周囲の騎士の威圧感が更に増したぞおい。おかげで多くのクラスメートがビビってる。  全く、それにしてもこの状況でよくもまあ、さも強引と思われてることが不本意だみたいに言えたものだ。 「陛下失礼いたしました。勿論そのような気持ちで言った言葉ではありません。私にしろそこのユウトにしろ、失礼があったのならお詫び申し上げます」    とは言え、ここは一旦下手に出ておいた方がいいだろう。ユウトはどこか不満そうだが、少しは頭を冷やして欲しいものだ。 「ユウトはクラスの中心人物で、いざという時には遺憾なくそのリーダーシップを発揮するタイプなのですが、しかしその分、少々融通が効かないところがあるのです。ですが、それもこのような見知らぬ世界に突如召喚されてしまい、戸惑いを覚えての中での事です。そこを汲み取って頂けると嬉しく思います」 「ふむ、確かにお前たちのいた世界とは全く異なる世界にやってきたのだから、それも仕方ないと言えるがな」  とりあえず、場の空気は和らいだか。だが―― 「それに、このような空間でこれだけ多くの騎士や魔法使い風の皆々様方に囲まれてしまっては、戦闘も知らない我々が抵抗できる筈もありませんからね」  少しだけ棘を混ぜる。同時に、ユウトにも釘を刺す。あいつがハッとした表情を見せた。  どうやらやっと気がついたようだな。  そう、今の状況は、あまりに俺たちにとって不利。だが、考えてみれば当然だ。  帝国側が召喚魔法で俺たちを呼んでいる以上、万全の体制を整えているのは至極当然。  むしろ、例えば大した護衛もつけずに第なんとか皇女だけがこの場にいて全員を笑顔で出迎えるなんてありえない。  それはこの部屋を見ていれも判る。無機質な石造りの部屋。四方は壁で囲まれ、天井は皇帝がやってくるにはあまりに低い。  とはいっても剣や槍をギリギリ振り回せるスペースは確保されているがな。  そしてこの空間自体、恐らく誰もいなければそこそこは広いのだろうが、ひとクラス全員と更に周囲を騎士や魔法使い風の連中が囲んでいるこの状況ではあまりに狭すぎる。  つまり圧迫感が凄い、ひどく閉所的にも感じられる。俺はともかく多くの生徒は息苦しささえ覚えているだろう。  しかもそんな状況で重囲している騎士たちが常に睨みを効かせているのだから、緊張感から生じる精神的ストレスはとんでもないものな筈だ。  何せ既に口を押さえて吐き気を堪えているのもいるし、不安で涙が抑えきれていない生徒だっている。  こんな状態で――相手に歯向かうなんて出来る筈がない。そもそも最初から俺達が言うことを聞くよう舞台は整ってしまっているんだ。  正直言えば――この状況でも俺一人ならどうとでもなっただろうけどな。地球と違って個々の気のようなものは感じられても、外側につまり自然の気は感じられないから、忍気を練るのに時間が掛かるし、体内の忍気だけだと一度消費すると回復するのに時間が掛かるという欠点はあるが、それでも広範囲忍術で相手を撹乱させてその隙に遁走するぐらいは可能だ。  もしかしたら出入り口の扉に鍵ぐらい掛かっているかもしれないが、ちょっとした鍵ぐらいなら余裕で開けられる。  魔法の鍵とかでも、まあ、強引に忍術で突破出来るだろう。見たところ材質自体は鉄だしな。鉄ぐらいは軽く切れないと忍者なんてやってられない。  ただ、それはあくまで俺個人であった場合の話だ。今は俺以外に多数の生徒がいる。流石にこの状況で範囲の広い忍術は使えないし、生徒全員をこの包囲網から突破させるのには無理がある。    一人二人ならともかく、何せ三十九人だからな……この世界の情報も乏しいしやはり厳しい。  先制攻撃による強引な突破が出来ないとなると、逆に相手がどんな魔法を使ってくるのかが判らない段階じゃ下手に動けないからな。  騎士にしてもこの世界特有の技があるかもしれないし、クラス全員の事を考えるならやはりここで無茶は出来ない。  何より俺が忍者だと言うことは、そう簡単に口外すべきことじゃないしな。  まあ、それはそうとして皇帝の俺に対する目付きが少し変わったな。険しいが、興味がありそうな感じでもある。  値踏みするようにみているが――突如表情が変わって、ふっ、と鼻で笑いやがった。なんだこいつ? 「まるで余がお前達を脅迫しているかのような物言いであるな?」 「滅相もございません。これはあくまで推測ですが、このような場所でこれだけ厳重にされているのは、陛下としても召喚魔法を行使した結果が予測できなかったからでは? つまり場合によっては敵対者になるものが現れるかもしれないと、そう考えている上で、それでも陛下がわざわざこの場で見届けることを望んだのであれば、これだけ多くのしかも見るからに百戦錬磨といった勇ましい騎士たちに囲まれているのも判る気がします」  俺がそう発言すると、何人かの騎士はまんざらでもないような顔を見せた。チョロいなおい。 「ふむ、まあ口だけは達者なようだが、それで、お前は余の提案を受け入れるつもりではあるのか?」 「それに関してはすぐの返答は致しかねますね。自分一人で決められる話ではありませんし、やはり不安に思っている者も多いでしょう」 「そ、そうです。一介の高校生の私たちに戦いなんて――」 「ですので、我々としてはとりあえずここでの返答は一旦控えさせて頂き、先ずは英雄の力というのを確認させて頂きたく思うのですが如何でしょう?」  俺は、ユウトが何かを言おうとしたところで無理やり覆い隠すように言葉を発した。  正直これは俺としても憶測の域を出ないし、本当にゲームやラノベみたいな事があるのか? と半信半疑な面もある。  ただ、俺達を利用するにしても何かしらの力がなければ意味が無いだろう。つまり―― 「ふむ、確かにそうであるな。どちらにせよ、すぐにでも適合職クラス判定はするつもりだった。判断はそれからでも構わぬ。それにクラスが決まればきっと考え方も変わるであろう。マジェスタ、準備は出来ているな?」  隣の大臣に皇帝が問いかけた。マジェスタというのがあの爺の名前らしいな。 「勿論でございます。お前たち、これから上の神殿に出てもらう。そしてそこでクラス判定を受けてもらおう」 「え、え~とそのクラスとは何でしょうか?」 「ふん! そんなことはやってみれば判る。いいからついてまいれ」  明確に答えるつもりはないのか、出し惜しみしているのか。どちらにしろ偉そうだなこの魔導大臣とやらは。  ただ、とりあえずはこの閉鎖的な空間からは出しても問題ないと判断されたようだ。  ふぅ、この息苦しい部屋から出れるだけでも良かった。俺も慣れてるとは言え、やっぱできればこんな騎士に囲まれてるようなむさ苦しくて暑苦しい状況は回避したかったからな。 「あんた、ちょっと待つっす!」  うん? そんな事を思いながらとりあえず、ぞろぞろと部屋を出て行く皆の後ろの方についていたら見知らぬ誰かに声を掛けられたな。  まあ見たところ騎士だし、知らないのは当然だけど、この子、女? 小さいからこんな子がいたことには気が付かなかったな。  でも、なんか呼び止められたけどなんだ? 何か文句でも言われるか? まあ、皇帝に向かって結構生意気な事言ってしまったかもだしな……。 「あんた、凄いっす! あのドラッケン皇帝に一歩も引かないその肝の強さ! 感服したっす!」 「え? あ、ありがと、う?」  何だ? 俺褒められたのか? 妙にキラキラした目で言ってきてるし。  う~ん、口調はともかく結構可愛らしい子だな。癖のある赤毛で、瞳も赤。なんか元気いっぱいって感じだ。 「あ、紹介が遅れたっす! 私はマイラといいます! 何か困った事があったら聞くっす!」 「あ、うん、判った。俺はシノブだ宜しくな」  宜しくっす! と元気いっぱいに答えて俺の両腕を握って上下に振った。  なんかナチュラルに接触できる子なんだなこの子。  で、何やってるんだマイラ! と他の騎士に怒られて罰が悪そうに去っていった。    う~ん、なんか妙に印象に残る子だな。  て、何か急に悪寒が――何が? と思って見回したら、なんか聖 知癒ひじり ちゆがこっちをジト目で見てきてる。  なんだ? 俺なんか悪いことしたか?  ……あ、そういえば召喚される直前に教室で話しかけられてたんだったな。    結局話が途中で終わったみたいになったけど、それに怒ってるのだろうか? 状況が状況だけに仕方ないことだとは思うんだが、落ち着いたら話を聞くか。  尤もあの件は俺も途中で切り上げようとしたから、そんなに言うこともないんだけどな……。 「……モテるなシノブ」 「は? 俺が? 何言ってんだよ?」 「……天然か」  いや、それはケント、お前にだけは言われたくないんだが―― 『おい、あまり調子に乗ってんじゃねぇぞ?』  ケントとそんなたわいもないやり取りしながら歩いていたら、俺の横を通り過ぎながら小声でマグマがそんな事を言ってきた。    ちらっと振り返ったあいつの目は、どうも俺に敵対心を抱いているようであり。  全く、突然異世界に召喚されたり、変なのに目をつけられたり、今からこれじゃあ先が思いやられるってなもんだ――
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