第三話 それぞれの適合職

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第三話 それぞれの適合職

 俺達は扉を出てすぐにある階段を上り、その上にあるという神殿部分に出た。  床はすべて大理石であり、また竜の彫刻が施された柱頭のある白い柱が中央で等間隔に並んでいる。  その柱の間を突き抜けるように赤絨毯が敷かれ、それを目で追っていくと、三段程積み重なった先に台座と水晶が置かれ、台座を挟んだ向こう側には金髪で一見すると清楚そうな女性が佇んでいた。  着衣しているドレスは透明感のある羽衣のような仕立てが成されており、惜しげもなく露出した肩と大きめの胸がさり気なく強調されている。  と、言ってもそこに下世話な嫌らしさは感じられず、むしろいいアクセントになって高貴な華をより鮮やかに飾り立てているようですらある。  尤も、外面だけみても中身がどうかまではわからないものだけどな。  ただ、多くの生徒、特に男子はにっこりと微笑み続けているその女性に完全に心を奪われているようでもある。  そうなると女子の反応が気になるところだが――彼女たちは彼女たちで、その高貴そうな女性の両隣に並ぶ黒騎士と白騎士に目を奪われているようだな。  片方の黒騎士は波がかった黒髪が特徴の、気難しそうな男。地下から上がってきた俺達に真っ先に目を向け、一挙手一投足見逃さないと言った見るからに融通が効かなそうな騎士だ。  雰囲気としては全体的にワイルドでコンパクトに纏められた顎髭がより野性味を強調しているのかも知れない。  年齢的にはどうみても俺達より一回りは上だが、こういった大人のしかもワイルドな雰囲気漂う男に女は弱いのかもな。  一方でもう一人の白騎士は、彼とは対象的になんとも甘ったるい顔をした銀髪の白い鎧に包まれた騎士。ふんわりとした両サイドに流すような髪型で、髭はなし。  碧眼で、一見すると細身だが、つくべきところはしっかりついているといった感じか。  ちょいちょい髪型を気にしてる様子が癇に障るタイプでもあるが、やはり女子うけはいいだろうな。年齢は俺達よりは上だが、もう一人のワイルドな黒騎士よりは四、五歳下ってところか。 「そこにいるのは余の二番目の娘で、イグリナだ。そしてこれからお前たちにクラスを与えてくれる」 「与えてってことは俺達はまだそのクラスとやらが決まってないのか?」  興味深そうにそれでいて下心みえみえの目でイグリナを見ていたマグマが、皇帝の話に反応し問いかける。 「その通りだ。本来この世界の人間であれば十二歳になると同時に神殿でクラスが決まるが、お前たちはこの世界に来たばかりでまだクラスが決まっていない。だから殿下自らこうしてクラスを授与しょうというのだ。光栄に思えよ」  魔導大臣とかいうマジェスタが尊大な態度を見せる。腰巾着って言葉がぴったりはまるなこいつ。  何はともあれ、クラスを与えるために三十九人の生徒が並ぶ。柱の間の赤絨毯の上で待ってる感じだな。  とりあえず俺は様子見の意味で最後尾に立つが、俺の前にはケントが並んだ。 「……なあ? クラスってなんだ?」 「うん? ケントはゲームとかやったことないのか?」 「……うちにはその手のはないからな」    ああ、そういえばそうだな。実はケントの家はあまり裕福ではない。母子家庭でケントの下に弟や妹がいるからな。  俺は一度だけケントの家にいったことあるが、築何年だ? というぐらいの木造アパートに住んでいた。ただ、ケントの母親はいい人で妹や弟も可愛らしかったけどな。  ただ、父親が悪かったらしく呑んだくれて終いには他所で女を作って、お前とは別れるという書き置きだけ残して消えてしまったらしい。  おかげで養育費もまともに貰えることがなく、だからケントが少しでも家計の足しにしてもらおうとアルバイトを頑張っていたわけで。ガテン系でな。  う~ん、こう考えると、なんか絵に描いたような苦労人だな。まあ、本人は苦労とは思ってないらしいし、家族とも仲がいいから他人が口出しすることでもないんだろうけど。  まあ、そんなわけでケントはゲームとは無縁の生活を送っていた。携帯電話も持ってなかったぐらいだしな。  だからクラスとか言われてもわからないのも当然だな。 「俺もあくまで知ってる創作物の知識でしかないけど、クラスというのは――」    だから俺は掻い摘んでケントに説明した。ケントはこうみえて、と言ったら失礼かもしれないが、わりと成績もいい方だから理解するまでは早かったな。 「……つまりそのクラスで能力が変わったり、何か技とか魔法が使えるってことか」 「ああ、そうなるな。まあ、ここで言われてるクラスがその通りかわからないけど。ただ、見てみろよ」  俺はそういって前の方でクラスが決まった生徒を目で示す。    「やった! 俺! クラス猛戦士だったぜ! なんか強そうじゃね?」 「はい、おめでとうございます。猛戦士はシャウト系の固有スキルが多いクラスですよ」 「いいな、俺ただの戦士だぜ」 「あ、私は突剣士だって。突くのが得意みたい」 「私は炎術士だったわ! 炎の魔法なら任せておいて!」  こんな感じで次々と各人のクラスが決定していく。最初はかなり不安そうにしていたあいつらも、クラスが決まった途端一喜一憂といった様相だな。  やはりいいクラスになれると嬉しそうだ。 「……なるほどな。あれで能力が決まるのか」 「ああ、そうだろうな。スキルというのはこの世界でいう技って事だろう」 「……でも、技なんてそう簡単に使えるものなのか? そもそもどうやって使うんだ?」 「それを聞かれるとな、まあ、その辺りは後から教えてくれるんじゃないか? 俺もこればっかりは自分でなってみないとわからないしな」 「……そうか――」  そして暫くこの儀式の推移を見守る。すると、突如、おお! というざわめきが起きた。 「――おめでとうございますユウト様。貴方様のクラスは、勇者です」 「え? ぼ、僕が勇者?」  ユウトの戸惑いの声がこっちにまで聞こえてきたな。本人は信じられないといった様相だけど、周囲はユウトなら当然かといった顔を見せているのもいるし、女子は特にキラキラした瞳をあいつに向けている。 「へ、へえユウト、勇者なんて、な、中々やるではないか」 「流石ですユウト様! ユウト様ならきっと勇者になれると私信じておりましたわ!」 「ユウト凄い! 流石僕の惚れた男だよ~」 「ゆ、ユウト様、お、おお、お、おおおお、おめ、おめでとっ、いた!」  そして、当然だがユウトの親衛隊連中は特にこれを喜んでいた。  まあ、何か一人だけ毛色の違うのもいるけどな。 「ユウト様、勇者のクラスが得られるのはこの世界に危機が訪れた時、たった一人だけと伝承には残されております。我が祖国のため、ひいては世界のために、どうかお力添えを宜しくお願い致します」  そして、改めて第二皇女のイグリナ自ら頭を下げ、ユウトにお願いする。   「ちょ、ちょっと待って下さい! そんな僕が勇者なんて、そんな大役――」 「駄目、ですか?」 「うっ!」  あ~ユウトの奴、上目遣いで潤んだ瞳を見せるイグリナにすっかり惑わされてるな。  まあ、とはいっても、男は女の涙に弱いものだからな。 「殿下、まだクラスの授与が終わっていない者が残っておりますので」 「は、そうでしたわね。ではユウト様、どうぞ宜しくお願い致します。良いお返事が頂けることを期待しております」  そしてユウトは一旦その場を離れ儀式は再開された。  あいつは、その場から下りた後、顎を押さえて考え込み始めたな。真面目そうだしな。 「おや、貴方のクラスは剣豪ですね。これもかなり珍しいです。流石は英雄として召喚されただけあって、皆様良いクラスをお持ちですね」 「わ、私が剣豪?」  説明を聞いて驚いているのは神谷 舞カミヤ マイだ。  さっきユウトが勇者だったことを喜んでいた親衛隊の中で一人だけ毛色が違ったのが彼女だ。  それもそのはずで、彼女はそもそも親衛隊に入る気はなかったのだが、ユウトと幼馴染ってことで無理やり加入させられたらしい。    家が剣術の道場をやっていて、ユウトもそこで剣術を学んでいたからそれで良く知っているらしいな。  剣豪のクラスもその経験が生きているのかもしれない。ちなみにマイはかなり変わった女で、クラスでも竹光を常に持ち歩き、不貞な輩はその竹光でバンバン斬りまくっていたりした。  その為か、しっかり竹光もついてきてるな。腰に帯びてるし。  それにしても……よく考えたら変な学校だな。とは言え、見た目はいいから男子にもついでに女子にもファンが多い。親衛隊に加入させられながら、彼女は彼女でファン倶楽部が出来てるぐらいだからな。 「おお! こっちの子は聖女だぞ!」 「まさか聖女のクラス持ちが現れるとは――」  勇者になったユウトに負けず踊らずの歓声を受け、え? え? と戸惑っているのは――聖 知癒ひじり ちゆ、そう召喚される直前に俺が話していた女子だ。    なんかさっきは不機嫌そうな目で見てきた子だな。その子がまさか聖女とはね。  話を聞いていると聖女は回復魔法のエキスパートで、更に聖なる力を秘めた魔法は攻撃にも使用可能らしい。  回復魔法となるとパーティーに一人は必須な人材だな。何か人気がでそうだ。 「よっしゃーーーー! 俺は爆裂戦士だぜ! 強そうなクラスゲットだぜ!」  で、今度はマグマが一人はしゃいでいる。とは言え、強力なクラスなのは確かなようで、攻撃力に関してはトップクラスらしい。  そしてユウトを睨めつけてるな。何か勝手にライバル視してるみたいだけど、ユウトは全く気がついていない。  さて、そうこうしている内に遂に俺の前、つまりケントがクラスを授与される番となったわけだが。 「ケント様、貴方のクラスは拳闘士です。これは拳を使ったスキルが得意なクラスですよ」 「……何か今とあんまかわんね」 「――へ?」 「……こっちの話だ」 「は、はぁ……」  ケントはそれだけ言い残して姫様の前から離れた。う~ん、基本は蛋白だよなあいつ。  さてっと、そんなわけで、いよいよ最後は俺の番となったわけだが。 「シノブだ、宜しくな」 「あ、はいシノブ様ですね。そしてどうやらこれで最後のようですね」    後ろを確認しながらイグリナが言う。そして隣の黒髪の騎士にちょっと睨まれた。  ちょっと軽すぎたか? 一々丁重な姿勢みせるの面倒なんだよ。大体他のクラスメートもわりと軽かったし。  それにしても、クラスか。俺の場合、元々忍者なんだけど、この場合どうなんだろな? 忍者とかストレートに言われてもな。  まあ、それならそれで、異世界で手に入ったクラスって事でごまかせるかもだけど―― 「……え?」  すると、皇女様が目を丸くさせて驚きの声。何だ? 一体どうしたのか?  とりあえず俺は様子見に徹するが、皇女様は目を白黒させて戸惑ってる様子。  そして、もう一度、と口にし、再び俺に手をかざし始めたわけだが。 「……ふぅ、どうやら間違いないようですね。シノブ様、貴方のクラスですが――残念ながら【無職】でございます」  へぇ、俺のクラスが無職、て、はい?
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